最悪の原発事故、元モスクワ支局長が見たドラマの本質

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編集委員・副島英樹
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 欧米で反響を呼び、今年のエミー賞に輝いた米ケーブルテレビ局HBOのドラマ「チェルノブイリ」(全5話)の放送・配信が、日本でも始まった。「あまりにリアルで残酷」「世界滅亡の瞬間に立ち会っているよう」。ネットでは、こうした感想が飛び交う。果たしてその内容は。モスクワを拠点に旧ソ連諸国の取材経験がある記者が、「ネタバレ」しない範囲でレビューする。

〈略歴〉副島英樹 1962年生まれ。広島支局(当時)、大阪社会部などを経てプーチン政権誕生前後の99~2001年にモスクワ特派員として旧ソ連を取材。08年9月~13年3月にモスクワ支局長を務めた。同年4月に大阪本社に発足した「核と人類取材センター」初代事務局長に。16年9月から広島総局長、今年9月から編集委員。

職員が嘔吐…「核の恐怖」を可視化

 その名の通り、1986年4月26日に旧ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所で起きた20世紀最悪の原発事故をベースにしたドラマだ。事故対応にあたった核物理学者のレガソフ氏ら実在の人物を主人公に、当時の状況が生々しく再現される。

 チェルノブイリ原発の原子炉は、核分裂に伴って出る中性子を減速するのに水ではなく黒鉛(炭素)を使う黒鉛減速炉(RBMK)と呼ばれる。旧ソ連が独自に開発したもので、レガソフ氏はその専門家だった。

 この事故では4号炉が動作実験中に制御不能となって爆発。炉心がむき出しになり、放射性物質をまき散らした。周辺住民は移住を強いられ、半径30キロ圏内が居住禁止区域に。事故処理には「克服」や「清算」とのニュアンスを込めて「リクビダートル」と呼ばれた作業員が投入され、ヘリから砂やホウ素、鉛を投下する消火作業などにあたった。ロシア政府は2000年、約86万人の作業員のうち5万5千人以上が死亡したと公表したが、放射線障害による犠牲者数をめぐっては大きな幅があり、今も定説はない。

 第1話は、「ウソの代償とは?」という問いかけから始まる。それは、「本当に危険なのはウソを聞きすぎて真実を完全に見失うこと」という意味深な言葉へと続く。

 現場で黒鉛の破片を手にした消防士が強烈な放射線で肉がただれ、原発職員が突然嘔吐(おうと)して崩れ落ちる場面などは、「核の恐怖」を可視化している。

 しかし、このドラマの本質は…

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