なでしこ、パスに世界との差 長谷川唯、W杯糧に五輪へ

勝見壮史 堤之剛
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 サッカーの日本女子代表(なでしこジャパン)は10日、国際親善試合「MS&ADカップ」で南アフリカ代表と北九州スタジアムで戦う。2大会ぶりの優勝をめざした今夏のワールドカップ(W杯)では16強止まりだった日本。中心選手のMF長谷川唯(22)は、どう振り返り、東京五輪への糧とするのか。思いを聞いた。

 日本人らしい、きちんと転がる丁寧なパス。それを、変えなければいけないと思った。

 22歳で初めて出場した今夏のW杯フランス大会。「パススピードが、海外の選手と比べて、全然違った」。日本が劣っていると感じたわけではない。違いを生んでいるのは技術ではなく、プレーに対する考え方だと思った。

 「パスが浮いているから次のミスが起こる、と日本では出し手が悪いとなる。欧州だと、ちょっとぐらい浮いていても、受け手がなんとかするだろう、と。そういう感覚で、スピードのあるパスを出していると感じた」

 初戦のアルゼンチン戦。格下の相手ですら、パスは速かった。もちろん、浮いてしまったり、ずれたりするミスはある。それでも、カウンターの狙いを持ったパスでひやりとさせられた。

 一方の日本。正確にはつながるが、ゴール前を固めるアルゼンチン守備陣を乱すような強いパスは、ほとんど見られない。パスが弱ければ、その間に相手が陣形を整える時間ができてしまうのだ。得点は奪えず、0―0だった。

 日本は、少年少女のころから整った人工芝で練習をしていることが多い。そういった環境も、影響しているかもしれないと感じた。「パスが浮かないようにすると、今の日本のサッカーのように、パスが緩く(ゆっくりに)なってしまうところはあるのだと思う」

 フル出場したアルゼンチン戦でけがをし、2、3戦目はスタメン落ち。先発復帰した決勝トーナメント1回戦のオランダ戦で、前半43分に自身初得点となる同点ゴールを決めた。だが、チームは終了間際の失点で敗れた。「チャンスはたくさん作っていた。決めていれば、勝てた」。そのオランダは準優勝。W杯は、不完全燃焼で終わった。

 日本初のU17W杯(17歳以下)制覇を達成し、U20W杯は3位。これまで、世代別では世界トップを争ってきた。だから、「大会の途中で帰るという経験がなかった。違和感じゃないけど、そういう感覚はありました」と苦笑いする。

 当時チームを率いたのは、現在なでしこジャパンを指揮する高倉麻子監督だ。世界でずっと一緒に戦ってきた恩師とともに、来夏の東京五輪はリベンジを誓う舞台でもある。10代半ばのときに2011年のW杯初優勝、12年ロンドン五輪銀メダルをテレビで見た。「体格に優れない日本人が、こういう結果を出せるんだということを、先輩たちが見せてくれた。そのサッカーをもっと発展させたい」

 悲願の金メダルへ。そのために必要だと考えるのは、相手を置き去りにするような速いパスだ。「味方には、速いボールを要求する。多少ぶれたり、ちょっと浮いたりしたボールでも、しっかり収めて前を向く。そういう選手にならないといけない」(勝見壮史)

     ◇

〈はせがわ・ゆい〉 1997年1月生まれ、宮城県出身。日テレの下部組織で育ち、14年の17歳以下(U17)W杯で優勝。18年は日本代表として、アジア杯、アジア大会の優勝に貢献した。国際Aマッチ40試合出場、8得点。

五輪へ「点取り屋」発掘なるか

 サッカー日本女子代表(なでしこジャパン)は、東京五輪に向けてチームを新しくつくりあげている段階だ。今夏のW杯フランス大会は3大会ぶりに決勝に届かず、16強止まり。不本意な結果に、高倉監督は「選手たちの目の色が変わったと感じている」。チームに必要なのは、攻撃面での新戦力と、強豪との戦いを見据えた適応力だ。

 課題は「点取り屋」の不在。W杯フランス大会で、日本は4試合で3ゴール。FWの得点は岩渕のミドルシュートと菅沢のPKだけだった。組織の力で相手の守備を崩しても、最後の場面で決定力を欠いた。南ア戦には、速いドリブルで仕掛ける植木(日テレ)を選出した。W杯メンバー外だった選手を試し、新たな可能性を模索している。

 南ア戦について、高倉監督は「(プレーの)強度、精度を上げることに集中して戦いたい」という。W杯フランス大会日本代表23人のうち、海外リーグに所属する選手は2人だけだった。欧州勢の力強いプレーに不慣れで対応できず、苦戦した。東京五輪に向けて、体の強さやプレーの正確性をより高めることに重点を置く。

 南ア戦では、臨機応変な判断力も試される。南アは今年のW杯が初出場と実績に乏しいが、運動能力は高い。高倉監督は「予想外のことが起きたときの選手の対応を見たい」と話している。(堤之剛)

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