やけに丁寧な再検査の電話…胃がんだった 記者の体験記

有料記事がんとともに

編集委員・伊藤智章
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 7月、胃がん手術を受けた。胃の下半分を切り取り、いまは抗がん剤治療を受けている。ステージは4段階の「2」。3、4と重い人もおられる中、体験をつづることにためらいもある。それでも生活は激変した。男性の5年後生存率は59%とされ、命の限りを意識する。自分なりに考えたことを書いておきたい。

年間100万人、生涯で2人に1人ががんと診断される時代。検診や医療技術の向上で、多くの人ががんを治療しながら働き、暮らしています。胃がん手術を受けた記者が、体験を踏まえながら取材したことを記します。

入院前思わず見渡した会社のフロア

 がんの疑いを告げられたのは、5月の連休前だった。人間ドックの再検査を促す電話があった。「申し訳ないが、もう一度来院を」とやけに丁寧な言い方で、検査のミスなのかとのんきに思った。

 再検査の結果はクロ。胃壁に異変がある、転移はわからない、たぶん手術できるだろう、早く病院へ……と、医師はパソコンの画面を見ながら淡々と告げた。

 職業柄いつもの癖で何か質問しなければと思い、とっさに「コレステロールはいいですか」と尋ねた。医師はあきれ顔で「がんの治療が先だよ」。初めて深刻さを意識した。

 10年前に死んだ父が胃がんだった。2年前死んだ母方の伯父は大腸がんだった。ここ数年は疲れやすかったが、来年60歳という年齢のせい、と片付けていた。

 それでも自分の命の問題とは捉えられず、母や妻に悪いなと考えた。88歳の母は体も心も弱り、家と介護施設と病院を行き来している。私の病気を知ったらどう思うだろう。やっと子どもたちが自立し、夫婦の生活を大事にしようと言っていた妻にはどう話そうか。

 名古屋大医学部附属病院への入院が決まった。頻繁に検査があるため、会社にも説明した。夏に掲載予定だった平和の記事、9月の伊勢湾台風から60年の連載もたずさわれなくなった。

 「大変だな」。同僚らに言われるたび、落ち込んだ。興味の赴くままに取材に飛び回り、会社の大勢なんて関係ないよと生きてきたのに、今は配慮を頼まなければならない。踏ん切りがつかないまま取材に出て、出張もした。入院前日も会社に行った。会社を出るとき思わずフロアを見渡し、記憶にとどめようとする自分がいた。

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 体の変調を本当に実感したの…

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