妻ががんになり、記者である僕に料理の熱血指導が始まりました。入院、手術を経た妻の食欲は旺盛。でも医師の説明に僕は涙があふれます。妻が描いたイラストとともにつづります。

僕のコーチはがんの妻 第6話(全16回)

 2018年正月、目を覚ますと妻は僕の布団に入ってきて「おめでとう。今年もよろしく」と言った。

 免疫力をつけるため、正月は大阪市内を歩きまわった。JR鶴橋駅周辺のコリアンタウンを歩いていると、チヂミが並ぶ食堂に妻は吸い寄せられ、チヂミやキムパ(のり巻き)をほおばった。さらにはキムチ、トッポギ……次々と買い食いする。「アカン、私はダボハゼや。食欲が止まらん!」

 1月11日、気の重い診察日。病院の診察室に入ると主治医は「残念ながら転移でした」。「3カ所ともですか?」「そうです」

拡大する写真・図版石川県輪島市の魚の「振り売り」。近所のおばちゃんから妻は魚料理を習っていた=妻のブログ「週刊レイザル新聞」から

 妻は背筋をシュッと伸ばして聞いていたが、診察室を出ると、せきを切ったようにしゃべりはじめた。「お母さんより早く死んだら割に合わんわ。養老保険があと6年で満期だから、自分で使うんや。……何も恩返ししてあげられなくて、ミツルこそ割に合わんなあ」「食事に気を使って、毎日1万歩歩いて、甘いものはやめていたけど、こんな早く転移するなら意味なかった。昼ご飯は帝国ホテルでオムライスや」。僕は涙をこらえるのに必死だった。「せやな」としか言えなかった。

 この後、悪性黒色腫の専門医が…

この記事は有料記事です。残り1298文字
ベーシックコース会員は会員記事が月50本まで読めます
続きを読む
現在までの記事閲覧数はお客様サポートで確認できます
この記事は有料記事です。残り1298文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
この記事は有料記事です。残り1298文字有料会員になると続きをお読みいただけます。