「山の味が一番おいしいんだ」
マレーシアのボルネオ島にある山奥の村で、先住民族の長老がつぶやいた言葉が頭に残っていた。2年前、違法伐採でボルネオ島の森が急速に失われていることを取材しようと、サラワク州ロングジェイク村にある、プナンの人々の集落を訪ねた時のことだ。
先住民族の食事
長老の一族は、数十年前までは森で狩猟採集をして自給自足の暮らしをしていた。だが、違法伐採が続いたことによってこうした暮らしは立ちゆかなくなり、取材した時は、伐採中止を求めて、東京五輪の国立競技場建設にも木材を輸出した企業を提訴中だった。民芸品を売って得られるわずかな収入と環境団体からの援助で食いつないでおり、「いつもおなかがすいている」と嘆いていた。
夜、掘っ立て小屋で集落の人々と車座で晩ご飯を食べた時、長老に「一族に伝わる民話があったら話してほしい」とお願いした。だが、通訳がうまく伝わらなかったのか、長老が語り出したのは、鳥やイノシシや猿の捕まえ方や調理の仕方など、極めて実用的な、食べ物の話ばかりだった。
「イノシシを捕まえるのは真剣勝負なんだな。足音は絶対に立てちゃいけない。そろそろと数人で近づき細い獣道を一気に追い立てるんだ」「ほどよく焼いたイノシシの肉を、溶けた脂にひたして様々な植物と食べる。塩もつけなかったが、あんなおいしい物はなかった」「猿もおいしいんだ」
差し入れをしたインスタントラーメンをすすりながら、歌うように長老が語った「山の味」。もう記憶の中にしかないその味を、私も食べてみたくてたまらなくなった。
「イノシシも猿も難しいけど、気軽に食べられる先住民族の食事があるよ」
あれから2年。食とはまった…
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