「夢を叶えた子だった」遺族や友人が語るアニメへの情熱

有料記事京アニ放火

武田啓亮 大部俊哉 山崎琢也 高木智也 茶井祐輝
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 アニメ制作に情熱を注いできた35人の命が奪われた京都アニメーション放火殺人事件。残る25人の犠牲者の身元が27日公表された。「夢と感動を残してくれた」「誇りに思う」。悲しみを胸に、遺族や友人らが思いを語った。

アニメに「誰よりも強い情熱」 丸子達就さん

 京都アニメーション放火殺人事件で27日に死亡が公表された丸子達就(たつなり)さん(31)=京都市東山区=は札幌市出身。「中二病でも恋がしたい!」「たまこまーけっと」で原画を担当。さらに「小林さんちのメイドラゴン」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」で作画監督を務めるなど、数々の人気作で活躍した。

 丸子さんは10年ほど前、札幌市の専門学校に通っていた。学生時代を知る男性は「優秀な人材が育った同級生の中でも、頭一つ抜けた才能の持ち主だった」。

 丸子さんは、2008年に開校した専門学校の1期生。目立つタイプではなく、旅先で写真を撮るときも「笑って」と促され、ようやくはにかむようなシャイな人柄だった。ただ、アニメには「誰よりも強い情熱を秘めていた」。休み時間も教室で机に向かって黙々と絵を描いていた。

 画力が高く、同級生から技術的な相談を受けることも多かったが、一つ一つに熱心に答えていたという。

 特に難関とされる京アニ入社試験に合格したと聞き、男性は「彼は自分の力だけで夢をつかんだ」と感心したという。

 専門学校の卒業制作には京アニへの思いがにじみ出ていた。同級生と作った7分半の短編アニメ「スイートレモネード」。うれしいと身体が宙に浮き上がり、悲しいと身体が地面にめり込んでしまう「浮き沈みが激しい」ヒロインをめぐるラブコメディーだ。日常の中に非日常的な光景が繰り広げられるストーリーや、キャラクターの造形……。作品の端々から「京アニっぽさ」を感じたという男性はこう惜しんだ。

 「これから京アニでたくさん素晴らしい作品をつくり、アニメ界を背負うはずだったのに、夢半ばで命を奪われた。ただただ、残念でならない」(武田啓亮)

昨年、京アニに入社 大野萌さん

 京都アニメーション放火殺人事件で27日に死亡が公表された大野萌(めぐむ)さん(21)=京都府木津川市=は昨年、京アニに入社したばかり。姉の楓(かえで)さん(22)によると、高校生のころから自室の壁に「25歳で作画監督になる!!」という貼り紙を飾っていた。

 アニメの仕事にかける萌さんの努力を近くで見てきた楓さんは事件直後、妹への思いをSNSのメッセージで朝日新聞に寄せた。

 「入社したては、自分は絵の学校に行ってなかったから、全然やって怒られたらしく、人一倍絵を描いて、毎日毎日夜寝る前に絵を描いて頑張ってました。どれだけやっても、家族が褒めてもまだまだだって」

 楓さんにとって萌さんは「姉妹であって友だちのような一番の存在」だったという。「妹が、めぐが良い子だったって、努力家で夢を叶(かな)えた子だったって、多くの方に伝えたいんです。家族に、周りの方にとても愛されてたって」

 京アニ第1スタジオ近くの献花台には萌さんの友人たちも訪れていた。

 かつて同じマンションに住んでいたという京都大3年の女子学生(20)は「頑張ってたのを知っているから、こんな形で将来がなくなることが悔しい」。

 萌さんが就職前にアルバイトをしていたスーパー店長の高田光男さん(45)は27日、朝日新聞の取材に「(萌さんが)こんな事件の被害者になるなんて、現実として受け止められていない。事件から1カ月以上が経つが、1日たりとも萌さんのことを忘れることはない」と語った。大部俊哉、山崎琢也、高木智也)

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