トーレス、有終の輝き 引退試合の神戸戦、大敗したけど

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上山崎雅泰 平塚学 大野博
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 「ありがトーレス!」。サガン鳥栖のFWフェルナンドトーレスの引退試合となった神戸戦。23日夜、2万3055人の大観衆で埋まったホーム・駅スタは、希代の世界的ストライカーに対する、これまでの活躍への感謝の声であふれた。

 この日、トーレスはフル出場した。だが試合は、盟友・MFイニエスタ擁する神戸に主導権を握られ続ける展開。トーレスはボールを奪うため、最前線で走り回る。チームに貢献する姿はさすがだったが、詰めかけたサポーターが望んだ姿ではなかったはずだ。

 駅スタが沸いたのは、後半14分。トーレスがかつての輝きをのぞかせたプレーだった。FW小野裕二がDFとGKの間に絶妙なパス。トーレスはDFの裏のスペースを抜け出してボールを受けた。DFを置き去りにして、GKと一対一に。しかし判定はオフサイド。トーレスは天を仰いだ。

 速い、強い、うまい――。トーレスは、ストライカーに必要な才能の全てを持ち合わせていた。スペイン代表として出場した2008年の欧州選手権。決勝のドイツ戦では、スピードを生かしてDFを振り切り、優勝ゴールを決めた。一瞬の抜け出しから金髪をなびかせて容赦なくゴールにたたき込む。そんな姿に魅せられ、翌年秋、私は英国に行った。

 スペインの古豪アトレティコ・マドリードの下部組織出身のトーレスは、このとき、イングランドの名門リバプールにいた。ホーム・アンフィールドスタジアムでのハル・シティ戦。目の前でトーレスはハットトリックを達成した。2点目は裏に抜け出し、相手DFはおろか、GKまでかわしてみせた。全盛期のトーレスは敵なしだった。

 18年。「まさか世界的な名ストライカーが」。サガンへの移籍発表に最初は耳を疑った。そして偉大なストライカーは、ここでもサポーターの期待に応えてみせた。昨シーズンのJ1残留は、トーレスの横浜F・マリノス戦の決勝ゴールがあったからこそだ。

 引退試合となったこの日。後半、5分の追加タイムを過ぎ、最後の攻撃も実らぬまま、終了のホイッスル。トーレスはうつむきながら唇をかんだ。そして神戸のFWビジャと抱擁し、言葉を交わした。欧州選手権に加え、10年のW杯優勝時に代表で戦った盟友だ。

 「いつの日か、チャンピオンクラブになるように働いていきます」。試合後の引退セレモニーで、鳥栖のアドバイザーに就任予定のトーレスはこう宣言した。だが、チームの現状は将来の優勝はおろか、今シーズンのJ1残留さえおぼつかない。「トーレスが抜けたから残留できなかった」では悲しすぎる。奮起するしかない。

 そしていつの日か、鳥栖が優勝したときに再び、こう言おう。「Gracias Torres!(ありがトーレス!)」。(上山崎雅泰)

■最後の雄姿 心に刻んだ…

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