宇和島東、被災地に届けた元気 応援席を彩ったミカン色

照井琢見
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 9年ぶり9回目の夏の甲子園に臨んだ宇和島東。12日の初戦では宇部鴻城(山口)に3―7で敗れたものの、のびのびとしたプレーで反撃をみせ、西日本豪雨の被災者に元気を届けた。

 昨年7月の西日本豪雨で大きな被害を受けた愛媛県宇和島市。宇和島東の野球部員も、大規模な土砂崩れが起きた吉田町でボランティアに取り組んだ。7月30日、愛媛大会で優勝を決めた後、主将の阿部颯稀(さつき)君(3年)は言った。「豪雨で被災した南予の方々に元気を与えられるよう、甲子園で気迫のあるプレーをみせたい」

 甲子園には、宇和島市民や関西在住の卒業生らが大勢集まった。タオル、メガホン――。ミカン色の応援グッズが一塁側アルプススタンドを彩った。

 吉田町の西山茂世さん(78)もスタンドから、3番右翼手で出場した孫の森田武尊(たける)君(3年)に盛んに声援を送った。

 夫や息子らとともに立間地区でミカンを栽培。豪雨で畑が崩れた。心配した森田君は練習の合間を縫って、西山さん宅の敷地に広がった土砂のかき出しを手伝った。

 あれから1年。ミカンの出荷は再開したが、畑の一部は崩れたまま。幼いころから野球に打ち込んできた孫の甲子園出場という知らせに、茂世さんは「やってやれないことは無いんじゃねえ」と喜んだ。

 「宇和島東が甲子園に出ることでみんなを元気にしたい」と意気込んでいた森田君。この日の初戦では4打席目まで凡退し、本来の打撃ができなかった。だが、最終回の好機に犠飛を打ち、意地をみせた。茂世さんは「本当にご苦労さまと言いたい。元気をもらえました」と森田君をねぎらった。

     ◇

 取材をしていて感心したのは、常に自然体でいられる選手たちの姿。「選手たちをしばりつけず、本来の力を出せるようにしたい」という長滝剛監督の指導のたまものだろう。3日の甲子園練習の後、赤松拓海君(2年)は少し汚れたグラブをうれしそうに見せてきた。「塗りました。甲子園の土っす」

 試合中も選手たちにこわばった様子は見られなかった。

 5点をリードされた四回、適時打を放ったのは、初戦を「めちゃくちゃ楽しみ」と話していた赤松君だった。

 地元の後押しを受け、愛媛大会と同じように笑顔を絶やさなかった宇和島東。「敗北を糧に……」なんていう堅苦しい言葉は似合わない。新チームでも、のびのび野球を続けてほしい。(照井琢見)

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