「黒く染めるか、切るか」と迫られ…ブラック校則の実態

ニュース4U

波多野大介
【動画】#ニュース4U 地毛なのに黒染め? Anlyさんも指導に憤り=波多野大介、江口和貴撮影
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 髪を黒く染めろと言われた――。学校の頭髪指導に悩む生徒たちがいる。くらしの困りごとや疑問を取材する朝日新聞「#ニュース4U」が経験者らに話を聞いた。

髪色サンプル、毛先に当てられ

 ロングヘアの毛先のあたりが光の加減でやや茶色っぽく見える。東京都内に住むフリーターの女性(18)は、今春卒業した都立高校で、その髪を黒く染めるよう指導を受けたという。

 女性によると、入学直後、頭髪の検査があった。生徒指導の男性教員が髪の色のサンプルが並んだ「スケール」を毛先に当てた。3~15番のうち、3、4、5は「黒色」と判断されるが、女性の髪の毛先は「6・5」と告げられ、指導対象となった。

 両親に生まれつきの髪を染めないよう言われ、守ってきた。毛先が茶色っぽいのは「毎日のドライヤーが原因だ」と説明したが、教員からは「黒く染めるか、切るか」と言われた。

 当時は髪を伸ばしていたので、黒く染めようと美容室に行った。しかし、もともと傷みやすい髪質だとして、「黒染めしたら、後でもっと茶色くなる」と美容師に止められた。店の名刺の裏にそう理由を書いてもらって学校に提出。2年間は何も言われなかった。

 しかし、3年になって指導教員が代わると、受け入れてもらえなくなった。「ドライヤーをしなきゃいい」「お前を認めたら、みんなドライヤーで脱色するだろ」と怒鳴られた。最後には「黒くしないと、校門で帰す」と言われたという。

 女性は家族に相談して、学校側に抗議。行き過ぎた指導と認められ、そのままの髪で卒業できた。だが、疑念は今でも晴れない。

指導の是非、全国で話題に

 「生まれつきのままの髪をなぜ染めなきゃいけないのか」

 学校現場の頭髪指導をめぐっては、2017年、大阪で府立高校3年だった女子生徒が地毛の黒染めを強要されて精神的苦痛を受けたとし、約220万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴したことで注目された。現在も裁判は続いている。また、同年の朝日新聞の調査では、全日制の都立高校の約6割で、生徒が髪の毛を染めたり、パーマをかけたりしていないかを確認するため、「地毛証明書」を提出させていることもわかった。

 こうした指導の是非が話題となり、中高生の時の苦痛を忘れられない人たちが声を上げ始めた。

 沖縄・伊江島出身のシンガー・ソングライター、Anly(アンリィ)さん(22)は、那覇市内の高校3年の時、頭髪指導を受けた経験を「MANUAL(マニュアル)」という曲(https://www.youtube.com/watch?v=NN-Qc-V1hqM別ウインドウで開きます)にした。

 米国人の祖父を持つクオーターで、生まれつき髪が茶色がかっている。高校入学時に地毛申請に加え、幼少期の写真も提出した。

 それでも毎月行われる頭髪検査で、生徒指導の教員から頭のてっぺんをのぞかれ、くるっと一回転させられた。「私は生まれたままの髪の毛が茶色なのに」。疑問をぶつけると、「いろいろな子がいるから」と答えが返ってきた。地毛申請を出してもそれ自体が疑われ、黒色の「地毛」が根元に生えていないかを点検するためだった。

嫌で仕方なかった経験、歌に

 「地毛点検」と呼んでいた。嫌で仕方がなかった。「髪の毛が黒いのが正しいっていう考え方自体もおかしいと思った」

 高校3年の時、そんな思いの丈を楽曲作りにぶつけた。「バババッ」と3日間で歌詞も曲も完成。常識やルールにとらわれる学校への痛烈な批判を込めた。

 ♪いい子ちゃんになれって言うこと? スキンヘッドにしてやろうか?

 ♪ジロジロ見るのやめてよ イライラするから

 今まで発することがなかった鋭い言葉が並んだ。「それくらい嫌だったし、そこまで思わせるくらい人の気持ちを考えずにルールをつくったり、押しつけたりするのは、ダメなことだなって思う」

 ライブでの披露前には、曲を作った経緯を説明。動画を撮って拡散するようファンに伝えている。「嫌だった気持ちだけじゃなく、もっとお互いに認め合おうっていう、一番伝えたい大きな部分があるから、力も入るし、大事な曲」と話す。

 反響は年齢を問わずあり、多くの世代が苦しんできたことがわかるという。現役の中高生からは「代弁してくれてうれしい」との声が寄せられた。「いつか歌わなくていい日が来ることを願ってこれからも歌い続ける」

 ♪生まれつきな自分が好き 変わらない 変えられない ウザいことは言わずに 目を凝らしてみたらどうなの? わざわざ揃(そろ)えなくても じゅうぶん世界は美しい

行き過ぎた指導は「憲法違反のおそれ」

 家庭用品大手「プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)・ジャパン」が今年2月、現役の中高生ら600人を対象に実施したインターネット調査で、13人に1人が地毛の黒染めを求める指導を受けた経験があると答えた。

 学校での子どもの人権に詳しい同志社大学の大島佳代子教授(憲法・教育法)は、地毛の黒染め指導のように、生来の身体的特徴の変更を強いるのは、「憲法13条が保障する『自己決定権』を侵害する憲法違反にあたる」と主張する。また、校則を破ったからといって授業を受けさせなかったり、修学旅行で別行動にしたりする「罰」を科すことは憲法26条で定める「学習権」を侵すおそれが強いと説明。「『ブラック校則』と言われるが、生徒が納得できる説明をしないまま従わせようとする教員の行き過ぎた指導こそが問題だ」と指摘する。

 髪を黒色に統一する指導の必要性について、裁判が起きた大阪や「地毛証明書」を提出させていた東京の学校の関係者からは当時、「校内の秩序を保つ」「ルールを守れる人間に育てる」「学校の評判が落ちては困る」などの理由が挙がっていた。

 一方、中高の教員400人を対象にしたP&Gの調査では、髪や髪形に関する校則について、70%が「疑問を感じている」と回答した。87%が「時代に合わせて髪形校則も変わっていくべきだと思う」と答えている。指導する側には葛藤もあるようだ。

 大阪府立高校に約30年間勤めた阿形恒秀・鳴門教育大学大学院教授(生徒指導)は「学校は生徒の個性を伸ばす一方、社会性を育む場でもあり、校則は教員が苦悩しながら定めている」と話す。

 地毛の確認など頭髪指導についても、黒髪を染色して「地毛だ」と主張する生徒に対処する中で必要性が生じたと指摘する。その一方で、「教員は生徒との対話で説得するのが本来の姿で、地毛が黒くない生徒の髪への黒染め指導は不適切だ」と強調する。

署名活動や見直しの動きも

 今年5月、地毛でも黒く染めさせている学校の頭髪指導を巡り、病児保育などに取り組むNPO法人「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さん(39)や、都内の私立高校で地毛の黒染め指導を受けた経験がある大学生の女性(19)らが発起人となり、署名活動が進められた。7月下旬にそうした指導の中止を求める要望書と1万9065人分の署名を東京都教育委員会に提出した。

 都教委高等学校教育指導課の佐藤聖一課長は「生来の頭髪を一律に黒染めするような指導は行わない」と述べた。都教委は17年7月に各都立高校へ地毛の黒染め指導をしないよう通達しているが、改めて徹底を図るという。

 大阪府の府立高校の一部では、生徒会などと協議の上で、染色・脱色やパーマを禁止する規定を、故意に行った場合に限ると明記するなど、頭髪指導を見直す動きが出てきている。

 東京都世田谷区の大東学園高校や和歌山県紀の川市の県立粉河高校では、生徒、保護者、教職員が校則について話し合う「三者協議会」を実施。「ツーブロック」と呼ばれる髪形や授業中のカーディガンの着用などのルールを認めたケースもある。

校則って?考える機会を

 校則や教員の指導の見直しについて、生徒の立場でできることはあるのか。同志社大の大島教授は生徒と教諭の対話の必要性を挙げるが、「成績に響く」「在学中だけ我慢すればよい」と生徒が消極的になることが想定され、「学校と生徒会や、身近な経験者の大学生と校則を考える機会を、5年に1回など定期的に作るのが現実的」と提案する。

 校則自体をなくす動きもある。東京都千代田区の区立麴町中学の工藤勇一校長は14年に着任以来、宿題や定期テストをなくし、クラス担任制も廃止するなど生徒の自主性を生かした学校改革で知られる。

 細かい校則があった頭髪や服装についても、教員の指導対象から外した。「生徒と教員の時間を頭髪や服装の話に使うのがもったいない。生き方や命、人権など対話すべきことは他にたくさんある」との考えだ。

 同校では金髪やアフロヘアで登校しても、教員は誰も何も言わない。すると、元に戻す生徒もいれば、そのまま続ける生徒もいるが、「教員が頭髪を問題にしないこと。自己主張が目的なら、うちの学校では主張にならない。必要があるなら続ければいい」と工藤校長は言う。

 「身なりの乱れ」が、心の乱れや学力の低下につながるという考え方については、「まったくの幻想」と言い切る。「心が乱れるのは、大人が問題視するから。教員は目的と手段を取り違えてはいけない。生徒には自分にとって何が大事かを考えてほしい。これはどこの学校でもできることだ」と話している。

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