「治せる認知症」の手術 負担少ない手法、じわり広がる

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服部尚
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 「治せる認知症」と呼ばれる「特発性正常圧水頭症」という病気がある。近年は患者の心理的な負担などが少ない手術が注目を集めている。いったいどんな人が受け、どのような効果があるのだろうか。

元教授、認知症に悩む

 北里大教授だった白鷹増男さん(73)が自分の異常に気づいたのは定年退職後に専門学校の責任者として働いていた2012~13年。会議での重要な発言をまったく覚えていなかった。同僚に指摘されがくぜんとした。もの忘れが多くなるだけでなく、身体面でも異常が続いた。風呂上がりに片足たちができず下着を着るのにも不自由した。

 専門学校を退職後、散歩中に止まろうとしても、足が止まらず体が前かがみになるようになった。坂道では止まれず、下ってしまうこともあった。

 白鷹さんは、健康科学の教授で、授業でも認知症を扱うことがあった。自分の状況について「アルツハイマー型認知症などとは違う」と感じていた。

 17年1月、妻が探してきてくれた東京共済病院(東京都)を受診すると、「特発性正常圧水頭症」だと診断された。

 特発性正常圧水頭症は、脳脊髄(せきずい)液が脳室に必要以上にたまって脳を圧迫する病気だ。物忘れなどの認知症状、歩きにくくなる歩行障害、失禁など排尿障害の三つが代表的な症状だ。国内の患者は65歳以上の1・1%、40万人近くいるとされている。

 治療は、体に数センチの小さな切開を3カ所行いチューブを埋め込み髄液を抜く「LPシャント術」が有効だ。2時間ほどの手術で公的医療保険の対象になっている。腰椎(ようつい)から注射針で少量の髄液を抜いて症状が改善するかどうかを事前にみる「タップテスト」で手術の可否を判断する。

 シャントはほかにも頭に2センチほどの穴を開けてチューブを入れる「VPシャント」(脳室腹腔(ふくくう)シャント手術)などの手法もあるが、同病院では、低侵襲で高齢者に優しいとされる、腰椎(ようつい)からチューブを入れる「LPシャント」(腰部くも膜下腹腔シャント手術)を第一選択として進めている。

写真・図版

 白鷹さんはも17年3月、LPシャント術を受けた。「以前の生活を取り戻せた。頭にメスを入れなくて良いという安心感も大きかった」と白鷹さんは話す。

 認知機能検査では軽度の認知症が認められていたが、術後のテストでは改善した。歩く速度を見る歩行テストでは、3割の改善が見られたという。

 主治医の鮫島直之脳神経外科部長は「この病院の患者調査では88%に転倒の経験があり、25%で骨折を認められた。歩行障害は初期症状のサインです」と早期の受診を呼びかける。

■寄り添う夫婦、苦しんだ末に…

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服部尚
服部尚(はっとり・ひさし)朝日新聞記者
福井支局をふり出しに、東京や大阪の科学医療部で長く勤務。原発、エネルギー、環境、医療、医学分野を担当。東日本大震災時は科学医療部デスク。編集委員を経て現職。