ゲノム編集、遺伝病を防ぐ福音か 多様な功罪、線引きは

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福地慶太郎
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記者解説 科学医療部・福地慶太郎

 現在は治療法がない遺伝病の患者の家族にとって、この技術は福音となるのか。

 生き物の遺伝情報(ゲノム)を書き換えられる「ゲノム編集」。体外受精でできた受精卵にこの最先端技術を使えば、親が病気の原因の遺伝子を持っていても、受け継がせず、子どもが発症するのを防げると期待されている。原因となる遺伝子がわかっている遺伝病は5千以上とされる。

 政府の総合科学技術・イノベーション会議は先月、こうした手法を開発する研究を認める報告書をまとめた。来春にも研究ができるようになる。

 海外では、骨や血管の組織が弱まる病気や、突然死することがある心筋症などの発症をゲノム編集を使って防ぐことをめざす研究が行われており、国内でも手法開発への期待がある。

 東京都内の会社員の女性(44)の長女(5)は「テイ・サックス病」だ。あるタイプの遺伝子を持つために運動や認知の機能が落ちる。いまの医療では、治す方法がない。

 口からの食事が難しく、1歳9カ月で胃に穴をあけて直接栄養を届ける「胃ろう」を付けた。今春、呼吸ができなくなり、常に人工呼吸器が必要になった。女性は「娘がこんなにつらいなら、一緒に死んでしまおうかと考えてしまうこともある」と明かす。

 女性と夫は、ともに病気の原因遺伝子を持つが、発症はしない「保因者」だ。保因者同士の子は25%の確率で病気を発症する。日本人は約150人に1人が保因者とされる。女性は、受精卵にゲノム編集を施す研究を進めてほしい、と訴える。長女を治せる方法が開発されることが一番の願いだが、それが難しいのならば、「せめて次世代の子どもたちが、同じ病気にならずに生まれてほしい」と思うからだ。

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 ただ、多くの専門家は慎重な…

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