「二重被爆」した亡き語り部の系譜追う 映画、公開へ

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大隈崇 榎本瑞希 聞き手・佐々木亮
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 広島と長崎で2度原爆に遭った「二重被爆者」を15年にわたり撮り続ける映画監督、稲塚秀孝さん(68)が、8年ぶりの記録映画「ヒロシマ ナガサキ 最後の二重被爆者」を完成させた。二重被爆をテーマにした3作目。第1作の取材中に出会った山口彊(つとむ)さん(2010年に93歳で死去)の「反戦・反核を訴えるために、生かされている」という思いを受け継ぎ、新たな証言者も捜し出した。

 今作では、被爆当時8~15歳だった3人の男女がカメラの前で体験を語った。ともに広島市内で8月6日を迎え、9日以降、故郷の長崎に帰りついたという。

 長崎市の女性(82)は6日、広島市内の学校でげた箱から靴を取ろうとした時に閃光(せんこう)を感じ、建物の下敷きになった。家族と一緒に列車で長崎にたどりついたのが10日。女性は「人を焼くにおいに慣れてしまった」と証言した。広島市内で兄と2人で暮らしていた男性(89)=長崎市=は、長崎の爆心地付近で川の中の遺体や火災を目撃した様子を「地獄絵」と語った。

 二重被爆者については、国も正確な数を把握していない。稲塚さんは知人からその存在を聞き、04年に取材を始め、両市の被爆の光景が描かれた手記など頼りに証言者を捜してきた。長崎市は双方の被爆記録がある人が15人いると確認しており、今回は市を説得して取材依頼の手紙も送った。

 稲塚さんが被爆者を追い続けるのは、1作目の「二重被爆」(06年)に出演した山口さんが、晩年を語り部活動に捧げる姿を目の当たりにしたからだ。

 出会った当時、次男をがんで亡くしたばかりだった山口さんは、米ニューヨークの国連本部にも出向き、「3度目はあってはならない。命の限り訴え続ける」と語った。その様子は、死去の翌年に公開した第2作「二重被爆~語り部・山口彊の遺言」に結実した。

 山口さん亡き後、その体験は長女の山崎年子さん(71)と孫の原田小鈴さん(44)、ひ孫の原田晋之介さん(13)が語り継いでいる。稲塚さんは今作で4世代の思いを尋ねた。

 映画は「最後の」とうたっているが、稲塚さんは今後も証言者を捜し、2度の原爆投下の実態に迫るつもりだ。「まだまだ入り口に立ったところ。時間の許す限り取り組む」と話す。

 映画は80分。8月9日まで大阪市西区のシネ・ヌーヴォ、8月9~15日には長崎市の長崎セントラル劇場で上映される。(大隈崇、榎本瑞希)

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