なぜアントラーズは売られたのか 鉄の事情、ITの思惑

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箱谷真司 村井七緒子
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経済インサイド

 サッカー界に先週7月30日、激震が走った。Jリーグの強豪・鹿島アントラーズの経営権を日本製鉄が手放し、IT企業のメルカリが取得すると発表したからだ。アントラーズは、日本製鉄が旧住友金属工業時代から約70年にわたって支えた名門。本拠がある茨城県鹿嶋市は製鉄所がある「鉄の街」だ。なぜ今、「売却」なのか。メルカリの狙いは何か。強豪サッカーチームの売却から、日本経済を支える企業の変化を読み解く。

社名変更は「全く関係ない」

 アントラーズの前身は、住友金属工業が1947年に創部した住友金属工業蹴球同好会だ。「鉄は国家なり」「鉄は産業のコメ」と称された高度経済成長期には、住友金属工業蹴球団として、日本リーグ2部で実績を残した。91年には、ブラジルの名選手でのちに日本代表監督になったジーコ選手を招き、チームを強化。92年にJリーグが発足すると、「鹿島アントラーズ」に移行した。ジーコ氏らブラジルの名選手や国内のスター選手を擁し、国内外で20のタイトルを持つ強豪に。そんなアントラーズを、住金は一貫して支援してきた。

 住金の元幹部は「昔は鉄鋼業が産業の中心だった。知名度も高い鉄鋼メーカーがサッカーチームを支えることに、何の違和感もなかった」と振り返る。

 国内のあちこちに大きな工場を構え、地域の顔、そして日本の顔として経済を支える。そんな日本の「ものづくり企業」の象徴ともいえる鉄鋼業は近年、世界的な競争激化にさらされている。

 欧州や韓国、中国の巨大メーカーの存在感が増し、日本の鉄鋼業はかつてほどの存在感はなくなりつつある。生き残りのための再編が続き、住金も例外ではなかった。2012年に新日本製鉄経営統合し、「新日鉄住金」となった。今年4月、社名は「日本製鉄」に変わり、「住金」の名は消滅した。

 アントラーズの経営権売却は、社名変更に合わせたようなタイミングとなった。日本製鉄は「全く関係ない」と否定するが、ある元住金幹部は「統合により、住金は『別の会社』になった。アントラーズへの思い入れの程度が違うのは当然のことだ。頑張ってつないできた経営権を残してほしかったが、仕方ない」という。

素材メーカーの限界

 ただ、仮にサッカーチームへの「思い入れ」が日本製鉄内で徐々に変わってきていたとしても、同社は6兆円規模の売上高を誇る巨大企業。一方のアントラーズの売上高は約70億円で、しかも直近は黒字。今回の売却額は16億円だ。巨大鉄鋼メーカーのグループ全体の経営への大きな影響があるとはいえない。それがなぜ今、アントラーズの経営権を手放す必要があったのか。

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 7月30日の記者会見。日本…

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