逮捕覚悟、まさかの寛大な処置 五輪前夜の小さな奇跡

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山本亮介
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 自宅で夕食を終え、焼酎の水割りのおかわりが進んでいた。

 「おにいさん、これ、何の賞状なの?」

 堀川直人さん(76)は遊びに来ていた義妹(68)に尋ねられ、廊下の飾り棚に目を向けた。

 〈オリンピック競技大会の組織委員会は、あなたを競技補助係員に委嘱します〉――。

 少し酔いが回ったかな。体育教師を目指していた、あの頃の話をしたくなった。

 1964年10月9日。東京五輪の開会式の前日、日本体育大学陸上部3年の堀川さんは、国立競技場にいた。

 係員の研修を終え、夕方、競技場のゲート脇にある倉庫に向かった。高窓から入場行進が見えると、先輩たちから聞いていた。

 開会式は係員でも入場が禁じられていた。部員20人が日が暮れた倉庫で夜明けを待った。寒さがこたえた。

 「ああ、もう、だめだ」。トイレが我慢できなくなった先輩が出て行った。

 うつらうつらしていると、勢いよくドアが開き、目が覚めた。数人の警備員が立っていた。

 会議室に連れて行かれた。「…

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