【動画】高島巌さんの「ノコギリ音楽」を紹介するアサヒコドモグラフ。80年後、義理の息子でもある加藤寛二さんに演奏してもらった=影山遼撮影

 80年ほど前の映像がある。ピアノの伴奏で聞こえてくるのは、少し変わった「荒城の月」。これはバイオリン? いや、弾いているのはまさかのノコギリ。最近は教室もできて、ひそかに流行する「ノコギリ音楽」。映像の中の元祖とされる人物に迫った。

 「映像のノコギリ、義父(おやじ)からもらって使っているこれかもしれません」

 「歌ふノコギリ」のタイトルがついた映像を見て、東京都小平市の加藤寛二さん(90)がつぶやいた。1938年ごろに朝日新聞社が子ども向けに作った映像ニュース「アサヒコドモグラフ」内で演奏するのは故・高島巌さん。その娘と結婚したのが加藤さんだ。

どんな曲でも演奏

 そもそもノコギリ音楽とは何か。加藤さんが弾いてくれた。左手で器用に曲げた刃にチェロの弓をあて、曲げ方を変えることで自由自在に音を出していく。メロディーさえ覚えていれば、何でも演奏できる。

 アメリカのノコギリ音楽家らが記した「スクラッチ・マイ・バック」(89年)によると、発祥については多数の説がある。1800年代の北欧から生まれたなどの説もあるといい、長い歴史を持つようだ。

 加藤さんによると、高島さんがノコギリ音楽を始めたのは1933年ごろ。どのように耳にしたか今となっては定かでないが、音楽にほれ込んだ。アメリカにいた友人に頼んで送ってもらったノコギリを独学で覚えたという。「日本の元祖とも言えるノコギリ音楽家だったのではないでしょうか」と加藤さん。

 「ノコギリでさえ使い方一つで美しい歌を歌う。子どもの立派さを引き出し、美しい歌を歌わせるのが仕事だ」と児童福祉施設の園長を務めていた高島さんは考えていたという。

 対する加藤さんも、社会福祉法人「ときわ会」の理事長であり、障害のある人たちに向けた作業所を運営している。4月にあった入所式の演奏では、作業所の人々も美しいノコギリの音色に聴き入っていた。

受け継いだノコギリ

 こちらのノコギリ音楽との出会いは、大学生時代。テレビでたまたま目にし、見よう見まねで奏でてみた。その後、養護学校に勤めることになったことなどが縁で義父と知り合った。「テレビで見た音楽家がまさか義父になりました」

 加藤さんが受け継いだノコギリは、今の流行よりも一回り大きい。高島さんは多くを語ることなく、重厚な音だけで勝負した。

 「ノコギリでも福祉でも尊敬で…

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