浅田真央さん「ああ、幸せだな」 引退して気づいたこと

浅田真央さん独占取材

聞き手・後藤太輔
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10代の君へ

 フィギュアスケート女子で人気と実力を備えた選手として活躍した浅田真央さん(28)。15歳で世界を驚かせた後、世界女王に3度も輝いた頃を「楽しいと思えなかった」と振り返ります。自分を見失う経験をして、初めてたどり着いた幸せとは。自身の体験をふまえ、今の10代へのメッセージを語ってもらいました。

「幸せ」と感じたのは初めて

 全国各地を巡るアイスショー「浅田真央サンクスツアー」http://maotour.jp/別ウインドウで開きますを約1年前に始めて、「ああ、幸せだな」と思えるようになりました。そう感じたのは初めてです。選手のときは、大変だなと思うことが徐々に増えて、幸せだなと思えることがなくなってきてしまっていました。

 たくさんの応援やメダルを獲得するのは、うれしいことではありました。でもうれしいは「強い」からこそ得られる。一方で、幸せは「柔らかい」ものじゃないですか。選手のときはそこまで気持ちが柔らかくありませんでした。強くないと自分に負けてしまうので、幸せだと考える暇がありませんでした。

 15歳のシニアデビューの頃までは、すごく楽しかったです。シニアに上がってからは、心から楽しいとは思えなかったです。『楽しいと思わないと』と思いながら滑っていました。勝ち負けだけではなく、年齢と共に体形が変わって、ジャンプに乱れが出て思うように跳べなくなったり、試合で恐怖心が出てきたりしたからでしょうか。自分自身に対するつらさがあり、色々なことが重なって、「ああ、スケートって、どういう思いでやっていたのかな」と思い返すことは何度もありました。

 私は神経質で不器用だったので、あまり色々なことができず、スケートと共にずっとずっとずっと過ごしていました。機械のようにルーティンを繰り返していました。今思えば、よくやっていたなと。引退すると決めた時は、体も心も限界を超えていました。自分がしたいことがよくわからなくなってしまったり、スケートも滑らなくていいのかなと思ったり、目の前が真っ暗になってしまいました。

挑戦する気持ち、芽生えた

 誰にでも、前が見えなくなるときがあります。私も引退して目の前が真っ暗になったとき、旅に出てみました。焦らずゆっくりと、ただ時が流れるのを待ちました。何ができるのかな、何がしたいのかな、とスケートから離れて、自分に問いかけました。そうして、また新しいことに挑戦する気持ちが芽生えたのだと思います。

 ショーの冒頭は、引退したときに自分がしたいことが分からなくなり、目の前が真っ暗になってしまうことを表しています。でも、そこから少しずつ光が見えてきて。「誰もが輝けるんだ! みんなで一緒に輝こうよ」ということを表現しています。

 選手の時は自分と向き合って毎日を過ごしていましたが、今は1人でリンクに立つ競技とは違う。みんなで一つのものを作る楽しみがあります。チームのことを考え、一緒に作り上げていく素敵な仲間がいて、何時間練習しても、ショーを良くしたい、という信念があるので、つらいと思うことはありません。引退したら、試合の時のような緊張感や達成感は味わえないと思っていましたが、それは違いました。ツアーを通じて、現役の時以上の達成感を得ることができています。

 つらい時は、今やっていることや、その場から、一度離れてみてもいいのではないでしょうか。日ごろのつらい思いを忘れられます。時には、そんな時期も必要です。

令和、自然災害がない時代に

 福島、熊本、宮城などの災害被災地に足を運ぶこともあります。少しでも力になりたいと思い、被災した子どもが海外に行き、自分たちの経験を英語でスピーチしたり、海外の方と触れ合ったり、勉強をして帰ってきたりする活動を支援しています。

 被災した子どもたちの中には、すごく苦しい、悲しい、つらい思いをし、なかなか元気になれない子もいたと聞いていました。でも、海外に行き、帰ってきたときに、ようやく、元気で笑顔で話せるようになった子もいるそうです。日本を離れて、海外の人と触れ合う中で、自分の使命を感じたり、楽しいと思えることがあったりして、悲しさを少し忘れることができたのだと思います。

 被災地には、仮設住宅に住んでいる方もまだたくさんいます。自分の思い出のものを失った悲しみを抱えている方もいます。完全復興は、まだまだ遠いと感じます。平成は戦争もなく平和ですばらしかったと思う一方で、自然災害がすごく多くてたくさんの方が苦しみましたし、悲しんだ時代でもありました。令和は、変わらず平和で、自然災害がない時代になればいいなと思います。

何か一つ、目標を持って

 次の時代を担う子どもたちには、勉強でもスポーツでも、何か一つ目標を持ってほしい。色んなことに取り組む上で目標を持つことは大切です。目標を持てば、常に階段を上っていけると思います。私もそうでしたが、目標を持ってそれを達成したら、また、次の目標を持ちます。そうすれば、階段を上っていくようにして、必ず成長できます。何か小さい目標でもいいので、持つように、かなえるようにしてもらいたいです。

 みなさんにも、それぞれの考え方があり、生き方もそれぞれ違うと思います。スポーツなどで何か勝負ごとにこだわる人は、こだわればいいと思います。スポーツの試合であれば、強い気持ちは必ず必要だと思います。

 しかし、勝つことだけがいいというわけではありません。アイスショーのように、見てくれている人にいかに楽しんでもらえるか、という世界もあります。何でもいいので、何かに一生懸命向き合うことができれば、その経験が、また違う新しい道を開いてくれることがあるんだよと、子どもたちに伝えたいと思います。私は22年間、常にスケートに対して向き合ってきました。それがあったから今があります。

 私は今年29歳になります。まだまだ人生は長いですが、あまり作りすぎず、考えすぎず、自然の流れに乗っていきたいなと思います。ショーを十分やりきった後は、また自分がやりたいことが自然に見つかるのを待ちたいと思います。(聞き手・後藤太輔

     ◇

 〈あさだ・まお〉 1990年、愛知県出身。15歳でフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナル優勝。2010年バンクーバー五輪銀メダル。世界選手権は3度制覇した。17年に現役引退。=角野貴之撮影

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