「野放し」だった臨床試験 医療界の病根と闘った30年

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出河雅彦
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 がんの告知はタブーでいいのか。患者の同意がないまま臨床試験が進むことは許されるのか――。日本の医療現場にあった根源的な課題に向き合い、解決のための仕組み作りに奔走してきた一人の医師が、今春、30年以上に及ぶ足跡をまとめた本を出版した。神戸医療産業都市推進機構医療イノベーション推進センターの福島雅典センター長(70)。「日本の医療現場がどのように変わってきたかを知り、今後何をしなければならないか考えてほしい」という若者への思いを込めている。

福島さんは、日本の臨床試験のあり方に疑問を投げかけ続け、世界標準に近づくよう尽くしてきました。その半生は、医療界の「病根」との対決でした。

「医薬品市場が外国製品に占領される」

 福島さんは1983年5月、米国臨床腫瘍(しゅよう)学会に参加し、大きな衝撃を受ける。内科医として愛知県がんセンターに勤務していた34歳の時だ。

 当時、日本ではがんの告知はタブーとされ、効果があるかどうか根拠がはっきりしない薬が抗がん剤の売り上げ上位を占めていた。

 一方、米国では患者のインフォームド・コンセント(IC=十分な説明に基づく同意)を前提に、がんの薬物治療を改良するための臨床試験が盛んに行われていた。「このままでは日本の医薬品市場はいずれ外国製品によって占領されてしまう」。この思いが、その後の原点になったという。

 福島さんは日本の医療の「病根」がどこにあるかを深く考えた。その末に、①日本の医療を科学に基づくものにする②真に患者の権利が保護されるようにする③日本が医薬品、医療機器開発において他国と協調しながら国際競争に加われるようにする――。これらの三つの課題の解決を、自らの使命とする決心をしたという。

医薬品の臨床試験、厳正に

 89年、英国の科学誌「ネイ…

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