監視下の取材で見た涙 ウイグル族の女性「私は中国人」

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 青天の昼過ぎ、その施設の門をくぐると、はためく中国国旗が目に飛び込んできた。その奥の校舎の壁には、「厳格に指導する」のスローガンが見える。

 4月、記者は中国政府の案内で、新疆ウイグル自治区カシュガル地区の疏勒(シューロー)県にある「職業技能教育訓練センター」を訪ねた。

 カシュガルの市街地から車で30分ほどの場所にあるセンターは約3メートルの塀に囲まれ、外界と断絶されていた。中庭では男女がバレーボールに興じ、敷地内の物々しい雰囲気には不似合いな笑い声が響いた。

 中国政府の民族統制への反発が強まるなか、政府はイスラム教を信じる少数民族が過激思想に染まるのを防ぐためとして、こうした訓練センターを新疆各地に造った。

 国際人権団体や米国などはこれらのセンターを「再教育施設」と呼び、虐待などの深刻な人権侵害が行われているとの疑いを指摘している。取材を厳しく規制する新疆に政府がメディアを招いたのは、そうした批判を打ち消す狙いからだ。

 記者が訪ねたこのセンターは昨年1月に設立され、現在2056人が入所しているという。

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 中国政府は4月17、18の両日、新疆ウイグル自治区内の2カ所の訓練センターを内外メディアに公開した。朝日新聞以外に米ロ韓シンガポールの各1社と中国メディア4社が参加。取材先として、イスラム礼拝所(モスク)やバザールなども組み込まれた。取材は政府・党関係者の監視下で行われ、記者の質問を制限したり、取材相手の応答を遮ったりしたことはなかったが、自由行動は認められなかった。記事の検閲は受けていない。

繰り返し「党と政府に感謝」

 ヘッドホン型のマイクをつけて現れたママト・アリ学長(45)は、「指導の狙いは法律を知り、標準中国語を学び、職業技術を身につけること。宿舎内では携帯電話の使用を認めている。週1回の帰宅も可能だ」と説明した。

 案内されて教室に入ると、灰色ジャージーを着た26人が社会福祉に関する法律を学んでいた。

 教科書を熱心にノートに書き写していたウイグル族の女性(28)に声をかけた。近くの村の出身で、入所9カ月目だという。

 「貧しい私の家を助けてくれる友人がいました。ある時、彼は私に文章を見せました。『国家はムスリムが管理すべきであり、中国政府が生み出すいかなるものも使うべきではない。国家に従えば天国に行けない』と。私は次第にその考えに染まったんです」

 女性は涙ぐみ、「私は妹にも同じ考えを学ぶよう迫り、拒まれたので殴った。夫と毎日言い争い、離婚した。そんな時、村の共産党幹部に声をかけられてここに来たんです」と話した。

訓練センターの取材で、記者はある疑念を抱きます。それを学長にぶつけると激しい反論が。後半では、センターで撮影した動画も掲載しています。

「死者も出ている」国際団体が批判

 女性は「党と政府に感謝して…

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