ミヤコ蝶々がたたえた味 岐阜の中華店が誇るB級グルメ

竹山栄太郎
[PR]

 「わたし この味 好きやねん」

 漫才や芝居で活躍し、「浪花のおかん」と親しまれた故・ミヤコ蝶々さんが、味をたたえた中華料理店が岐阜県多治見市にある。東濃を代表するガッツリ系のB級グルメ「鶏球飯(カイコーハン)」で知られる店だ。

 陶磁器のまち・多治見の中心部。市役所近くに1968年開業の中華天国金山店がある。滝沢社喜(たかよし)さん(82)、八重子さん(82)夫妻と長女の渡辺さゆりさん(57)が切り盛りしている。古びたビルの1階で、カウンターとテーブルの12席のみ。

 看板メニューは、中華飯に鶏の唐揚げをのせた鶏球飯。白菜やピーマンなどの野菜を炒め、ラーメンスープとたれ、片栗粉を加える。並行して揚げておいた唐揚げを鍋に放り込んでからめ、ご飯にのせて出来上がり。しょうゆベースで甘くない。社喜さんは「あんと唐揚げの味が合い、いい具合になる」。腹持ち抜群の一品で700円。

 40年ほど前、「中華飯に唐揚げを入れたらおいしいのでは」という話が持ち上がって作り始めた。名前は親類が辞書を引いてつけたらしいが、由来は分からない。そんな店をミヤコ蝶々さんは気に入った。イベントで多治見を訪れた際、会場から出前の注文が入った。店にはそのときのサインが飾られている。社喜さんは「鶏球飯を届けたのかは覚えていない」。常連客にはラーメンとチャーハンのセット(700円)がよく売れる。

 近くには、廃業した銭湯やビリヤード場が残る。町歩きを通じて「昭和レトロ」を実感できるのも魅力だ。東海一円から客が絶えない理由は、おそらく料理の味だけではない。

 店のある土岐川の南側地区はその昔、多治見を代表する繁華街だった。しかし、窯業の低迷や大型店の進出のあおりで廃業する店が相次いだ。近くの「銀座商店街」はほとんどの店がシャッターを下ろし、人通りもまばら。古い街並みを生かして「名古屋の大須のように再生できないか」といった声は上がるものの、費用の問題などで話が進んでいないという。

 多治見と土岐市瑞浪市美濃焼の産地でもある。岐阜県産業経済振興センターによると、岐阜県は陶磁器産業で全国シェアの約5割を占める国内最大の産地。ただ、出荷額はバブル期を境に減り、ピークの4分の1ほどに。センターの河合俊彦主任研究員は「良質な粘土に恵まれて有数の産地に育ったが、円高に加えて、プラスチックや海外製食器との価格競争に苦しんだ」。

 中華天国ができたころ、店の向かいには映画館があり、飲み屋街の小路を酔客が盛んに行き交った。社喜さんは、往事のにぎわいが懐かしいという。でも、近年は鶏球飯がテレビ番組で取りあげられ、週末には遠来の客がやって来るようになった。「新しいお客さんが来てくれるのはありがたい。50年やってきた味を変えずに、元気なうちは店を続けたい」

アクセス・営業時間

 岐阜県多治見市金山町27(0572・22・8689)。午前11時半~午後7時。水曜休み。市内には、滝沢さん夫妻の長男が営む「中華天国前畑店」もある。(竹山栄太郎)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら