年収は最低1千万円…婚活女性の12年後「離婚したい」

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多田敏男
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ロスジェネはいま

 女性 34歳

 東京都 派遣社員

 〈理想の結婚相手〉

 年収1千万円以上。最低でも正社員。

 2007年の朝日新聞の新年連載「ロストジェネレーション」の1月8日付の記事は、こんな書き出しで始まる。主人公は、高年収の結婚相手を望む当時34歳の女性。見出しは「難婚世代」だ。みんな結婚するのが当たり前だった時代は終わり、一生独身も珍しくなくなった。不安定な働き方が増え、経済的な余裕がなくて結婚したくてもできない。ロスジェネはそんな変化に直面していた。

 それから12年。46歳になった女性はいま、関東地方に暮らし、中小企業でパートとして働いている。

 40歳のときに年下の男性と結婚していた。友人らの飲み会で知り合い、誠実な人柄に引かれたという。年収は1千万円以上ではないし、正社員でもなかった。

 「自営業をしていて、話しぶりから真面目で誠実そうな感じが伝わってきました。『この人となら』という安心感があった。私も結婚を冷静に考えられるようになっていて、相手の年収や立場などにこだわりはありませんでした。子どもを産むのもこのタイミングかな、という気持ちもありました」

     ◇

 34歳の時は相手に望むものが高かった。当時の記事にこうある。

 「世田谷の閑静な住宅街に住んで、専業主婦になって、子どもには海外留学をさせて、休みは家族で旅行に行って――」

 33歳の夏に、結婚情報サービスに入会し、婚活を始めた。選んだのは、「医師・歯科医、東大早慶卒、年収1千万円以上のいずれか」という「ハイスペック男性」の限定コース。女性の入会金は男性より高かった。30万円ほどかかった。貯金をはたいて婚活を続ける心境は「自分の力だけでは年収500万円も無理。結婚は、豊かな生活へジャンプできる大きなチャンスだと思う」だった。

 女性は高校卒業後、母親と2人で暮らしながら、運送などいろいろな仕事を経験した。30歳になったころに母親が亡くなり、都内の家賃5万円弱のアパートで暮らすようになった。派遣社員として企業のデータ入力作業を担当し、正社員なみに働いていた。ボーナスはなく、手取りは月20万円台前半。不安定な立場で、ずっと働き続けるのは難しかったという。

 結婚に期待していた。結婚情報サービスに入会していたのは半年ほど。マッチングされた複数の男性と会った。「お医者さんや会社経営者もいて、年収3千万円という人もいました。気に入られて、マンションを一緒に見に行った人もいた。でも、本当に楽しいと思える人に出会わなかった。じっくり話してみると、楽しくないとわかっている自分がいたんです」

 ロスジェネ世代が生きていくすべとして、結婚に駆られて焦っていたのかもしれないと、いまは思う。「『結婚を夢見る夢子ちゃん』だったのかもしれませんね」

 女性はマッチングされた人とは結ばれず、結婚情報サービスを退会。一人で生きていこうと思うようになった。小売り関係の企業で正社員の職を見つけ、働き始めた。店長などを任され仕事は忙しかったが、やりがいはあった。年収は300万円ほどあり、福利厚生も充実していた。

 もう結婚しなくてもいいのかなと思っていた時に、夫と出会った。引っ越しして、一緒に暮らし始めた。結婚してしばらくは働き続けたが、勤務地が遠くなり、家庭と仕事の両立が難しくなって辞めた。

 いまは通いやすい物流関係の中小企業で働いている。時給は1千円ほどで昇進や昇給はない。不安定な働き方に戻ったが、「結婚したからいいかな」と思った。

 「正社員でなくても、やるからには責任をもって仕事をしたい。事務作業から在庫整理まで幅広いですが、やりがいはあります」

 40歳で結婚した。したくてもできない独身者らからはうらやましく思われるかもしれないが、女性は取材にこう明かしてくれた。

 「結婚ってすれば終わりじゃない。周りからは見えない大変なことがいろいろある。実は、離婚しようと決意しているんです」

就職氷河期に社会に出た世代に、「ロストジェネレーション」と名付けたのは、朝日新聞です。40歳前後となったロスジェネは今も不安定雇用や孤立に向き合っています。生き方を模索する姿を伝え、ともに未来を考えます。

「何かが違う」感じたわけ

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 女性によると、結婚してから…

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