拡大する写真・図版 人形と並んでアロマスティックを嗅ぐ。この分野で世界最先端を走る自負がある=2019年5月17日、東京都港区のソニー本社、山本倫子撮影

凄腕しごとにん

 藤田修二さん(38)は考えた。アロマ(香り)を室内に拡散する製品はたくさんある。いつでもどこでも、ひとりで楽しめるものを作れないだろうか。新事業アイデアの社内公募に手をあげた。そして実現させたのが、2016年にソニーが売り出した「AROMASTIC(アロマスティック)」だ。

 頭部のダイヤルをコリコリ回し、好みのアロマに合わせる。鼻に近づけ、ボタンを押すとシュッと香りが噴き出す。ただし、香る範囲は半径15cm以内かつ一瞬だ。100回は試作したという円筒形の本体と交換式のアロマカートリッジには、簡単にまねできない工夫が詰まっている。

東大助教の道を捨て

 現在ソニーでプロダクトマネジャーの藤田さんは、幼少のころから「図鑑好き」だった。生命の起源や宇宙にあこがれ、母が購読する科学雑誌「Newton(ニュートン)」のページをめくった。東京大理学部から同大医科学研究所に進んだ。がん遺伝子やゲノムを研究し、助教就任がほぼ決まっていた。

 だが、08年に米国のある学会に参加したのが転機になった。米国の研究者は日本なら時間が2~3年はかかるはずの研究を1週間で終わらせていた。使っている装置の差だとわかり、打ちのめされた。「竹やりでマシンガンと戦っているようでした」

 進路に迷いがうまれた。ソニーの面接を受けた。「一発当てたいんでしょう」と面接官に聞かれ、うなずいた。自分の思いをうまく言い当ててくれたと感じた。

 研究職に就き、12~13年に米ハーバード大に留学した。そのときの同僚が「最近のソニーは何をつくっているの」と尋ねてきた。高シェアを誇るカメラ用イメージセンサーを挙げ、「君のスマホにも入っているよ」と胸を張った。相手は複雑な表情をみせた。

 すぐに察した。ソニーといえば…

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