経営者が会社を手放すとき つけられた値段への思いは

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榊原謙
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 中小企業の経営者にとって、会社は命や家族と同じくらい大事なもの。我が子のように手塩にかけた会社を手放さなければならないとき、経営者は何を思うのでしょうか。父から受け継ぎ、40年にわたって切り盛りしてきた会社を後継者不在のため売却することになった、ある社長の心の軌跡を追いました。

 後継者がいない中小企業の事業承継などを支援する公的機関、北海道事業引継(ひきつ)ぎ支援センター(札幌市中央区)。そこに、関係者だけが読むことを許された100ページにわたる内部文書がある。

 タイトルは「中小企業M&Aにおける譲渡側経営者心情の考察」。右上には手書きで「秘」の文字。今回、特別に許可を得てページを繰った。

 この文書の筆者は、札幌市内の会社の社長を40年間務めた北原慎一郎さん(69)。父が創業した会社を引き継ぎ、牧場などで獣の侵入などを防ぐ柵や、酪農用品などの製造・販売を手がけた。北海道内に工場、盛岡、東京、神戸に営業所を構え、18億円の年商があった。

 業績は好調で、独立経営は十分に可能だった。しかし後継者がいなかった。

 やりたい仕事に就いた2人の息子には、会社を継がせるつもりはなかった。社内に優秀な役員もいたが、好業績の会社の価値は上がっており、役員が個人負担で高額の株式を買い取って、経営を引き継ぐのは困難だった。

 結局、事業と約40人の従業員の雇用を守ってくれる他社に譲るのが最良、という結論に至らざるを得なかった。

 そう決意しても、心は揺れ動く。文書にはその葛藤が余すところなく記されていた。

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■川を渡る時…

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