「逃げる場所ある」ロスジェネの乱、技能実習生にも拡散

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編集委員・真鍋弘樹
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ロスジェネはいま

 JR中央線高円寺駅から歩いて5分ほど、ぼんやりしていると通り過ぎてしまうような地味なリサイクル店がある。

 店内の壁には「資生堂」の文字とロゴが。元々は薬局だった店舗をそのまま使っている。観光地の古いペナント、香港の郵便受け、聴診器……。ふざけているのか真面目なのか分からないような品々が並ぶ。店名は「素人の乱5号店」。そんな人を食った名前の店が、もう14年も続いている。

 店主の松本哉(はじめ)さん(44)を、2007年の朝日新聞の連載「ロストジェネレーション」では、「反乱世代」として紹介した。記事のリードで「時代の波頭に立ち、新しい生き方を求めて、さまよえる世代」などとつづった初回に登場してもらった。

 久しぶりに店を訪れると、松本さんは相変わらず飄々(ひょうひょう)とした物腰で店番をしていた。平日の夜、1時間で客は1組。ネパール出身という男性らが、2800円の中古炊飯器を買っていった。

 「こんなふざけた店が続いているって、恐怖感がないですか。つぶれもせず、もうかりもせず、ぎりぎり死ぬ寸前の状態で続いてます。売り上げはだいたい1日、2万5千円か3万円ほどで、2人を雇って何とかまわるぐらい。年収は200万円台ぐらいですかね。でも、どうせカネの使い道はないから。家賃と食費、あとは飲みに行くぐらいで、家財道具はリサイクルでタダだし」

 「確かに僕らは貧しいけれど、死ぬほど知り合いがいる。社会のシステムから離脱して、自分たちの経済圏を作っているようなもんです。結婚ですか? まあ、反対はしませんが、する意味はないと思う。年金は払っていないので将来はどうなるか分からないけれど、そんな長生きはしないですから」

 不真面目でいい加減のように見えるが、彼の狙いは10年以上前からぶれていない。就職氷河期に世に出たロスジェネが「生きる場所」を自分たちで作ってしまおう、ということだ。

 「社会の中であぶれて苦しんでいる人の居場所を作ろうとしているだけなんですけどね。友だちもおらずにずっと奴隷みたいに働くのはつらいでしょう。非正規で働いていても、自分たちのコミュニティーがあれば苦しまずに生きることもできるんです。地方から就職活動で上京してきたスーツ姿の若者が立ち寄って、『こんな生き方もあるんですね』と驚いていた。そう、なんだかんだ、生きていけるもんですよ」

 そんな松本さんの口癖は「マヌケ」である。例えば、「マヌケが集まって、生きのびる場所作りをしよう」などと大真面目に語る。

就職氷河期に社会に出た世代に、「ロストジェネレーション」と名付けたのは、朝日新聞です。40歳前後となったロスジェネは今も不安定雇用や孤立に向き合っています。生き方を模索する姿を伝え、ともに未来を考えます。

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