タコス店にいた29歳、米で旋風 「左のトランプ」賛否

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ニューヨーク=江渕崇
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 つい1年ほど前まで米ニューヨークのタコス店でバーテンダーをしていた29歳のヒスパニック女性が、米政界に旋風を巻き起こしている。史上最年少の連邦下院議員、アレクサンドリア・オカシオコルテス氏(民主党)。早くも「AOC」の略称が知れ渡った彼女は、急進左派的な政策を連打しつつ、SNSを駆使して若者の心をつかむ。「左のトランプ」とも呼ばれる若きスターの出現に、ほくそ笑む人がいる。ほかならぬ、あの人だ。

2千人の会場が満杯

 世界中から起業やITの関係者が集う「サウスバイ・サウスウェスト」(SXSW)。テキサス州オースティンで3月に開かれたこの巨大イベントで、とりわけ注目を集めたのは有名起業家でも大物政治家でもなく、「民主社会主義者」を自ら任じるオカシオコルテス氏のトークショーだった。

 2千人超を収容する最大会場に観衆が入りきらず、スクリーン中継の別会場ももうけられた。ステージ下では数十人のカメラマンが押し合いへし合いして彼女の登場を待ち構えた。

 「政府が民間を乗っ取るぞ、と民主社会主義への恐怖があおられています。しかし、いま私たちが本当に恐れるべきなのは、企業が私たちの政府を乗っ取ってしまったことです」

 沸き上がる大歓声と拍手。終了直後にスタンディングオベーションが起こったのは、記者が参加したSXSWの20以上のセッションでこれだけだった。

 「僕らの世代がみんな考えていることを、政治の場に初めて届けてくれたのがAOCなんです」

 記者の隣に座っていた工業デザイナー、リズワン・ザキさん(23)は興奮を抑え切れない様子だった。30歳ぐらいだろうか、斜め後ろの席の女性は、ハンカチで目をぬぐっていた。

一夜にして全米にとどろいた名前

 ベルリンの壁が崩れる1カ月前、ニューヨーク郊外でプエルトリコ系の母と零細企業を営む父の元に生まれたオカシオコルテス氏。ボストン大在学中に父を亡くし、経済や国際関係を学んで卒業した後はニューヨークに戻り、NPOやレストランで働いて家計を助けていた。満足な医療保険もなく、ギリギリの暮らしぶりだった。

 2016年の大統領選で、やはり民主社会主義者であるサンダース陣営の運動に加わった。弟の推薦をきっかけに昨年6月、民主党の連邦下院議員予備選(ニューヨーク14区)に出馬。米国都市部の若い層に広がる「プログレッシブ」(革新派)の波に乗り、次の下院議長候補だった当選10回の重鎮議員を破る大番狂わせを演じた。その名は一夜にして全米にとどろいた。

 翌7月、サンダース氏とそろって演壇に立った彼女の「全米デビュー」をカンザス州ウィチタまで見に行った。

 中心街にある定員1500人ほどの劇場が会場だったが、前夕になって突然、郊外の大型国際会議場に変更になったと連絡が入った。彼女の登壇がわかって申し込みが殺到し、収容しきれなくなったためだという。

 カンザスといえば、保守的な土地柄で知られる米国のど真ん中である。サンダース氏やオカシオコルテス氏の人気も、ニューヨークほどではないだろうと私は高をくくっていた。

 しかし、2人を迎えたのは…

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