失われた世代「優越感を持つ人も被害者」 中村文則さん

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中村真理子
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ロスジェネはいま

 戦争を知らない。大きな共通体験もない。「小説を書けば個人史になる世代」だと作家の中村文則さん(29)は言う。

 「土の中の子供」で芥川賞を受賞。作品に登場するのは、社会から逸脱した若者ばかり。どこまでも落ちてゆく若者を書く作風の重さが、評価された。「僕自身、社会にコミットしようと思わなかったし、できなかったから」。デビューまでは時給850円のコンビニ店員で、給料日の牛丼がごちそうだった。

 「僕らは損をしてきた世代。でも穴のあいた世代に生きるからこそ、乗り越えた時は強いはず」 (2007年1月12日付の朝日新聞)

     ◇

 「本当は牛丼もなかなか食べられなかったんじゃないかな。当時の280円は高かったから」

 ――12年前の紙面を読み返してもらうと、41歳になった小説家はこう口を開いた。冒頭の記事は、2007年1月に掲載した朝日新聞の新年連載「ロストジェネレーション」の最終回。その最後に登場してもらったのが、1977年生まれ、ロスジェネ世代の中村文則さんだった。

 「大学卒業後、コンビニでアルバイトをしながら作家を目指していました。あの頃、フリーターであり続けるのは恐ろしいことでした。僕より前の世代は『フリーター』=『夢を追う人』。自由でいいよねという雰囲気があった。しかし僕の頃は、『フリーター』=『下の人』というイメージ。フリーターは2年まで、と決めて法務教官の試験を受けていました。試験に合格したのと作家デビューがほぼ同時で、僕は作家を選んだ」

 ――法務教官、ですか。

 「少年院や少年鑑別所で少年たちの社会復帰に携わる専門職員です。少年犯罪を少しでも減らす歯車の一つになる人生も美しいと思ったので。合格して鑑別所の見学にも行きましたよ。自分は人生の興味が文学で、社会的な興味が少年犯罪でした」

 ――大学を卒業した2000年は就職超氷河期。2年間のフリーター生活を経て、02年に新潮新人賞を受けて作家デビューする。

 「フリーター時代に感じていたのは『差』です。正社員か、契約社員か、アルバイトか。アルバイトの僕は正社員から見下されていると感じていました。実際バカにしてくる人もいた。振り返ってみれば、彼らも感じる必要のない優越感を持たされていたのかもしれない。あのとき感じた『差』は、さらにひどい形で今も続いている。『差』が生まれた時期が、自分たちが大学を卒業した頃だったのかなと思います」

就職氷河期に社会に出た世代に、「ロストジェネレーション」と名付けたのは、朝日新聞です。40歳前後となったロスジェネは今も不安定雇用や孤立に向き合っています。生き方を模索する姿を伝え、ともに未来を考えます。

 ――フリーターであり続ける…

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