採算性に疑問、それでも工事は続く 迷走する長崎新幹線

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女屋泰之
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経済インサイド

 事業で投じた費用に対する効果を示す「費用対効果」。巨額の公費が動く公共事業では、計画の正当性を示す重要な指標だ。ところが長崎新幹線の建設では、それが軽視されるかのような事態が起きている。計画が迷走する中で一体何が起きているのか。見えてきたのは、事業の前提が何度崩れても立ち止まらず、ひたすら完成を目指す関係者の姿だった。

 投資効果は「0.5」――。3月29日、国土交通省が明らかにした数値は衝撃的だった。現在建設中の九州新幹線西九州ルート(長崎新幹線)の武雄温泉―長崎を結ぶ区間の、工事の費用と、完成による社会的効果を比べた数値だ。

 効果を計算する際は、新幹線が50年間走ると想定し、完成による便益を工事費で割る。便益とは、新幹線による移動時間の短縮など、社会全体が得られるメリットをお金に換算したものだ。

 工事の着工では、この投資効果が「1.0」を上回ることが条件だ。長崎新幹線の工事が2012年に着工したとき、投資効果は「1.1」とされ、条件を満たしていた。

 だが、その後の工事費は人件費の高騰などで2割多い6200億円に拡大。改めて投資効果を再評価したところ、その数値は「0.5」まで下がってしまったのだ。

 投資効果が下がったのは工事費増加だけが原因ではない。長崎新幹線の路線の根幹にかかわる誤算が、その背景にある。

車両開発の誤算

 九州では、南北を貫く博多―鹿児島中央間がすでに開通している。

 長崎新幹線は、博多から鹿児島中央へ向かう途中の新鳥栖(佐賀県)から、西へ長崎まで向かう約120キロのルートだ。

 このルートのうち、新鳥栖から武雄温泉(佐賀県)までは在来線を使い、武雄温泉から長崎までは新幹線専用のフル規格で整備することになっていた。規格が異なる路線を走らせるため、在来線とフル規格を乗り継げる新型車両、フリーゲージトレイン(FGT)を開発する計画だった。FGTなら車輪の幅を変え、どちらの規格の路線も走れる。

 だが、FGTの開発では不具合が多発し、運行コストも想定外に上がる可能性が出た。17年にJR九州は導入の断念を表明し、国交省も追認せざるを得なくなった。

それでも続く工事

 工事の前提が変わり、投資効果も大きく低下した。それなら事業は見直す――ということにはならないのが、新幹線の建設だ。

 フル規格でつくる武雄温泉―長崎間はすでに、6割の工事が終わっている。再評価では、全体の工事費を盛り込んだ投資効果だけでなく、残りの工事費を便益で割った投資効果も算出する。6割の工事が終わっているのだから、残りの工事費は少なく、便益を割った投資効果は大きめになる。実際、この区間の投資効果は1を超える。

 さすがにこの投資効果が1を割り込めば工事は見直されるが、今回は1を超えたので結局見直されない。要するに、「ここまで作ったのだから、完成させなければ損」(関係者)という考え方だ。

 もちろん国交省はそれ以上の…

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