踊るハサミに釘づけ 漫画界のレジェンド、もう一つの顔

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森岡みづほ
【動画】紙切りも一流だった「フクちゃん」の漫画家・横山隆一さん
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 国民的キャラクターになった四コマ漫画「フクちゃん」の作者で漫画家の横山隆一さん(1909~2001)は紙切りも得意だった。はさみを使って紙を人や動物など様々な形に切り抜いていく。漫画の大家がその腕前を披露する貴重な映像が残っていた。

踊るはさみ、最後に「オチ」も

 映像は、朝日新聞社が約80年前に子ども向けに制作したニュース映画「アサヒホームグラフ」。タイトルは「小父(おぢ)さんは紙切(かみきり)がお上手(じょうづ)」だ。

 約1分30秒の白黒映像の中で、子どもに囲まれた横山さんが、1枚の紙にはさみを入れていく。器用に動くはさみに、子どもたちの視線も釘づけだ。「みなさんも覚えて帰って、一つやってごらんなさい」とナレーションが呼びかける。

 ブタが完成し、子どもたちが奪い合う。その勢いに押された横山さんがひっくり返る。思わずクスッとしてしまう映像で、その人柄がしのばれる。

漫画「フクちゃん」を連載

 横山さんは1936年から東京朝日新聞に漫画「江戸ッ子健ちゃん」を連載していた。この中のわき役フクちゃんが人気になり、タイトルを「フクちゃん」などに変えて44年まで続けた。映像が撮影されたのは39年ごろとみられる。

 横山さんは41年に徴用され、陸軍報道班員としてインドネシアのジャワ島に派遣された。42年には朝日新聞でジャワ島の生活を伝える「ジヤバのフクチヤン」を連載している。

 戦況の悪化でフクちゃんは44年に休載した。戦後の56年、毎日新聞で「フクちゃん」を再開し、連載は71年まで5534回続いた。

横山さん「私は切り絵の名手」

 横山さんは著書「隆一コーナー」(82年)の中で、「私が、はさみを使って切り絵をする名手だという事を知っている人は少ない」とつづっている。

 同書によると、幼いころ、切り絵の名人が家に来て切り絵を残していった。横山さんは3歳くらいのころからそれを手本に切り絵に熱中していたという。

高知の記念館に作品

 横山さんの出身地の高知市にある「横山隆一記念まんが館」には、切り絵でつくられた絵本の挿絵や、横山さんが90代の時に作製した切り絵の作品が展示されている。「横山さんは非常に手先が器用だった」と、同館長の田所菜穂子さん(54)は話す。

 55年からアニメーションも制作していた。当時のアニメ制作では、切り取った登場人物の絵を少しずつ動かす手法もあったという。同館には切り取られた用途不明の絵も多数収蔵されている。

崎陽軒の「ひょうちゃん」も

 田所さんは「この絵がアニメ制作に使われたかはわからない。でも、紙切りの名人であったことが仕事の幅を広げたのではないでしょうか」。横山さんの仕事は広く、横浜名物の崎陽軒の「シウマイ」のしょうゆ入れ「ひょうちゃん」も横山さんのデザインだ。

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