安田桂子
つやつやした黄色い玉が、でんと座っていた。鹿児島県阿久根市の「中村青果」。中村昭雄さん(56)の笑顔に迎えられて作業場に入ると、甘酸っぱい香りがふんわりと漂ってきた。
ボンタンだ。直径18センチ、重さ1キロ。「このへんでは、庭に必ずボンタンの木があったんですよ」。中村さんが目を細めた。
東シナ海に面した阿久根市は、白波が打ち寄せる海岸線が約40キロ続く。江戸時代、難破した中国の商船の乗組員が流れ着いた。阿久根のひとたちが彼らを介抱し、もてなすと、船長の謝文旦(しゃぶんたん)さんがお礼に二つの果実を贈った。その種から育った木を文旦さんにちなんで「ボンタン」と名づけた――と伝わる。
淡いオレンジ色の果肉は、つぶ…