便秘に悩み続けた松本明子さん、宿便4キロ解消の道のり

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戸田政考
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【まとめて読む】患者を生きる・食べる「松本明子便秘

 タレントの松本明子(まつもとあきこ)さん(52)は幼いころから便秘に悩まされてきました。45歳を前に、便秘を改善しようというテレビの企画にかかわりました。半信半疑ながら、よくなる可能性があるならと治療を始めました。

松本明子(まつもと あきこ)さん(西田裕樹撮影)

1966年、高松市生まれ。バラエティーやドラマなどで幅広く活躍。自身の便秘の体験を書いた「腸をキレイにしたらたった3週間で体の不調がみるみる改善されて40年来の便秘にサヨナラできました!」(アスコム)を2015年に発売した。

ロケ続き「下剤ください」

 2007年4月、タレントの松本明子さん(52)のおなかは鉄板のように硬くなっていた。

 04年に起きた新潟県中越地震のエピソードをもとにした映画「マリと子犬の物語」の撮影で新潟県長岡市にいた。ある日の撮影の合間。「あっこさん、もうすぐ誕生日ですね。プレゼントは何がいいですか」とマネジャーの鈴木朝実(すずきあさみ)さん(46)に聞かれ、とっさに答えた。

 「下剤をください」

 慣れない土地で2週間以上のホテル暮らし、長時間の移動……。環境の変化やストレスに腸は敏感に反応する。普段から便秘で、うんちが出ないのに長期ロケになるとますます出ない。このときは1カ月近くごぶさただった。

 高松市出身。記憶をたどると、3歳の時にはすでに母に浣腸(かんちょう)をしてもらっていた。祖母も母も便秘で、家にはいつも浣腸があった。

 便意を我慢するようになったのは6歳ごろ。引っ越しで、幼稚園が遠くなったのがきっかけだ。最寄り駅まで40分ほど歩き、電車にゆられ、片道1時間かけて1人で通った。まだ今ほどトイレ事情がよくない時代。人気のない山道や駅のトイレは汚くて入れなかった。小学校に入っても、学校のトイレに行くのが恥ずかしかった。

 小学生のころから、アイドルを夢見ていた。山口百恵(やまぐちももえ)にピンク・レディー松田聖子(まつだせいこ)ら、きらびやかな姿に憧れた。「私もテレビの箱の中に入りたい」。中学を卒業し、東京に出た。いくつかのオーディションを受け、1983年に「♂(オス)×♀(メス)×Kiss(キス)」で念願のアイドル歌手としてデビューした。

 ただ、歌を出しても鳴かず飛ばず。落ち込んだ。レコード会社の人に「ご迷惑をおかけするので、もう出さなくていいです」と伝えたこともある。まじめな性格だからこそ、人一倍ストレスも感じやすかった。逆境は続いた。17歳の時、テレビの生放送で放送禁止用語を言ってしまったことが騒動になり、仕事が激減した。

 荷物をまとめて帰っておいで。そんな声を期待して、泣きながら実家に電話したこともある。すると、予想外の反応が返ってきた。「有名になれてよかったじゃん」。親の気遣いに勇気づけられた。

 それ以降、「なんでもやろう」と、20代後半にはバラエティー番組やドラマなどの出演が増えた。ハードな仕事にも挑戦した。特に90年代のテレビ番組「進め!電波少年」は過酷だった。当時危険だったパレスチナ自治政府のガザアラファト議長に会ったり、タイとカンボジアの国境付近の地雷を撤去したりと、体を張ったロケが多かった。

 米国、欧州、アフリカ、アジアを10日ほどで回ったこともあった。特にアフリカではいつトイレに行けるかわからない。「緊張で便意なんてなかった」

 トイレを理由に撮影を止めてしまうことで、周りに迷惑をかけたくなかった。ロケの時は食事や水分を控えた。うんちを肛門(こうもん)に送り出すためにポンプのように働く腸の「蠕動(ぜんどう)運動」がさらに弱っていった。

 タレントとして忙しい日々が続き、疲労やストレスで便秘はますますひどくなった。アロエのエキスやもずく酢、ウーロン茶など、「便秘にいい」と聞いたものは何でも試した。ただ、合わなかった。「体質だから仕方ない」「一生付き合うしかない」とあきらめた。

 32歳で結婚。翌年に妊娠すると、便秘はさらにひどくなった。40代になると、浣腸が効かなくなった。注入した液体は茶色くなって戻ってくる。水分が腸に吸収され、かちこちになったうんちが肛門をふさいでいた。指を入れ、うんちをかき出した。爪で皮膚を傷つけてしまい血が出ることもあった。痛さと情けなさで涙が流れた。吐き気がひどくなり、食欲がなくなり、ぐっすり眠れなくなった。

 07年にはがんで母を亡くした。がんの痛みもつらそうだったが、それ以上に、1週間から10日ほどで再発する腸閉塞(へいそく)がつらそうだった。人生の最期まで腸に悩まされる母の姿を見て、「自分の腸と向き合おう」と思い始めた。

 転機になったのは、45歳になろうとしていた11年。健康をテーマにしたテレビ番組の企画で、便秘を解消しようという話が舞い込んだ。この時初めて、便秘が病気であることや、病院に「便秘外来」があることを知った。4回に1回以上残便感を感じたり、自発的な排便回数が週3回未満だったりする人は便秘症とされる。便秘症は食欲不振や肌荒れなどにもつながる。

 当時、もう40年余り悩んできたんだから治るわけはないと思っていた。とは言え、可能性があるのならやってみたい。半信半疑だったが、引き受けることにした。

 これが、後の人生を変えることになるとは、当時は思いもしなかった。

宿便4キロ、そのせいだった

 テレビ番組の便秘を解消する企画に出演することになった、タレントの松本明子さん(52)は2011年3月、順天堂大学順天堂医院(東京都文京区)の小林弘幸(こばやしひろゆき)教授(58)を訪ねた。

 「まずはX線を撮りましょう」。小林さんに言われて自分のおなかの中を見てみると、驚くべきものが写っていた。

 「これ、全部便ですね」。小…

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戸田政考
戸田政考(とだ・まさとし)朝日新聞記者
科学医療部記者。再生医療やゲノム編集などの基礎医学に面白さを感じ、現在は医療全般を取材。気候変動問題もライフワーク。フットサル年50回が目標。テンションとコレステロールは高め。