震災後初の「新設原発」なるか、島根3号機の内部を取材

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西尾邦明 伊沢友之
【動画】中国電力が島根原発3号機の内部を公開=伊沢友之撮影
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 中国電力島根原発3号機(松江市)の内部を朝日新聞記者が取材した。県庁所在地に立地する唯一の原発は、原子力規制委員会の審査に入っていて、東日本大震災後初の「新設原発」になる可能性がある。現場では安全対策工事が進むが、地元自治体の「事前了解」をめぐっては課題を抱えている。(西尾邦明、伊沢友之)

「想定外は許されない」

 国宝・松江城がある市中心部から車で北西へ移動すること約25分。日本海に面した敷地に島根原発の建物が現れた。3号機の出力は国内最大級の137万3千キロワット。稼働すれば、島根、鳥取両県の全域をまかなえるという電源だ。

 中国電の案内でゲートを通って敷地へ。目を引くのは、海側約1・5キロを囲む高さ15メートルの防波壁だ。トラックや重機が行き交い、協力会社を含め約3200人が働く。3号機の安全対策工事は2019年9月末までに終わらせる計画だ。

 設備内部に入るには通常、被曝(ひばく)を防ぐ服の着用が必要となるなど準備に時間がかかる。だが、未稼働の3号機はヘルメットと簡単な外衣だけで入れた。

 中央制御室の操作盤はデジタルで表示され、タッチパネル仕様だった。ボタンやレバーが並ぶ2号機とは異なり、視覚的にも異常を察知しやすいようにするためだという。

 3号機は東日本大震災の発生前、原子炉核燃料を挿入できる段階まで完成していた。核燃料の運び込みも終え、プール内に水を張らずに保管されてあった。

 安全対策を何重にもする「多重防護」は原発づくりの基本だ。津波が防波壁を突破した場合に備え、建物の70カ所で浸水を防ぐ扉に切り替えた。津波で電源を失った福島第一原発の事故の教訓に基づくものだ。

 「原子炉格納容器」にも入れた。島根3号機は福島第一原発と同じ原子炉タイプだが、外側を厚さ2メートルの鉄筋コンクリートで覆うなどの改良を加えた。

 中国電では10年の島根1、2号機の機器点検・交換漏れなど不祥事が相次いだ。法令順守の意識を高めるため、全社員が研修を毎年受けている。渡部公一広報部長は「われわれには想定外は許されない。厳しいチェックを受けながら、ハードとソフトの安全性を高める努力を続けていく」と話した。

周辺自治体が求める安全協定見直し

 規制委の審査とともに課題とされているのが、原発の周辺自治体が求める安全協定の見直しだ。

 中国電が地元と結ぶ協定は、立地自治体の松江市や島根県からは「事前了解」を得ることになっている。島根県出雲市鳥取県など原発の周辺30キロ圏内にある6県市に対しては、「報告」のみにとどまる。

 福島第一原発の事故では30キロ圏内の広範囲に被害が及んだ。国はこのため、原発30キロ圏内の自治体に避難計画の策定を義務づけた。島根原発の周辺6県市は、協定を立地県市と同じにするように再三求めたが、中国電は応じていない。

 「周辺とは対策や事故時の被害の大きさが違う。周辺と同じに扱われるのは問題がある」。松江市の松浦正敬市長は事前了解の範囲拡大に反対する。周辺自治体と協議したものの、「立地自治体の意見を最大限尊重する」との文言を受け入れてもらえず、折り合えなかったという。

 国は、規制委が新基準に適合すると認めた原発を再稼働させる方針だ。その一方で、稼働前の事前了解では「事業者が任意に結ぶもので、国が関与する余地はない」(経産省)との立場だ。松江市と周辺自治体の板挟み状態にある島根県の溝口善兵衛知事は「県で調整するのは難しい。国に対応するように働きかけている」とする。

 事前了解をめぐっては、日本…

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