自衛艦に響くラッパ君が代 130年前の譜、呉港で今も

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文・佐々木康之 写真・上田幸一
【動画】明治から続く海上自衛隊の「ラッパ君が代」=佐々木康之撮影
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時紀行

 広島県呉市の呉港では毎朝8時、海上自衛隊の艦艇からラッパの音が響く。自衛艦旗を掲げる時に鳴らす「旗揚げのラッパ」だ。旧海軍の軍港が置かれた明治の昔から、終戦直後の一時期を除いて毎日繰り返されている光景だ。聴き慣れぬラッパ曲は、実は「君が代」。独特の旋律は、いつから使われているのか。

明治時代から毎朝8時に

 梅雨の晴れ間がのぞいた朝。急峻(きゅうしゅん)な山が囲む広島県呉市の呉港に、船舶用エンジンの低く重たい音が響いていた。

 出港前の艦は慌ただしい。海上自衛隊の練習艦「やまゆき」でも、若い幹部がメガホンを手に指示を飛ばしていた。艦長らは艦橋に詰め、計器やレーダーのチェックに余念がない。

 金色に輝くラッパを手にした5人が、港を見下ろす艦橋の裏手に並んだ。間もなく静寂が訪れる。「10秒前」。艦内放送を合図に、ファンファーレにも似た「気をつけ」の号令を鳴らす。

 「じかーん(時間)」

 午前8時。5人は海自に七つあるラッパのための儀礼曲の一つを吹き始めた。艦尾の旗竿(はたざお)には、朝日を模した自衛艦旗が揚がる。みな動きを止め、姿勢を正した。旋律が45秒間、辺りに響く。ラッパがやむと、乗員たちは持ち場に帰り、喧騒(けんそう)が戻った。

 1889年に旧海軍が呉に軍港を開いて129年。戦後の一時期を除き、呉市にも被害をもたらした豪雨の日も、毎朝8時に繰り返されてきた。乗員が吹いた曲は「君が代」。だが、いつも聴く「君が代」とは違う5音の旋律を持つ。海自はこの曲を「ラッパ君が代」と呼ぶ。独特の旋律は、いつから使われているのか。

五つの音で吹奏

 ♪ド・ソ・ド・ミ・ソ

 その曲はオクターブ違いの五つの音で吹奏される。「自衛隊のラッパはピストンがないんです。口の動きで吹き分けられるのが、この5音」。海上自衛隊で東京音楽隊長を務めた谷村政次郎(まさじろう)さん(79)=東京都江東区=はこう話し、「陸海軍喇叭(らっぱ)譜」という資料を見せてくれた。

 1885(明治18)年12月3日に出された陸海軍の通達。ラッパ君が代を含む221曲を、儀式や号令に使うラッパ譜に定めた。「その1曲目に載る君が代が、海自だけに受け継がれています」

 旗揚げに使われていたことは…

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