危篤、それでも母の体を気遣い… 父は穏やかに旅立った

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高橋美佐子
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もうすぐ父が死んでしまうので:6(マンスリーコラム)

 「あれっ? お義父さん、どうしたんだろう」

 静かに寝ていた父がいきなり険しい顔で両手を動かし始めたのに気づいた夫(47)が、ベッドに駆け寄り、その手を握った。私(49)と母(83)は言い争いを中断し、覆いかぶさるように父を見た。鼻の穴に酸素を送り込むチューブを着けた父は強く目を閉じ、もがくような動作をしている。顔は黄疸(おうだん)で真っ黄色だ。

 これが主治医の言う、亡くなる間際の「せん妄」なのか? 私は一瞬、身構えた。

異変の原因は

 昨年6月28日夕方、亡くなる2日前のこと。父が入院する緩和ケア病棟の個室で、母は帰り支度を始めた。危篤状態になって4日目。連日、片道1時間半かけて見舞う母の疲労は明らかで、昼過ぎに病室に着くなりソファへ倒れ込み、3時間も寝続けた。

 勤務を終えてやってきた夫が「お義母さんの体が心配だから途中まで送ってくよ」と言うのを母は「1人で帰れるから大丈夫!」と譲らず、私とちょっとした口論になっていた。

 父に異変が起きたのは、そんなときだった。夫が唐突に言った。

 「ああ、『少しは娘の言うことを聞け!』ってことですね」

 父は急に静かになった。意思疎通はもう無理だと思い込んでいた私は驚いた。母は「ハイハイ、わかりましたよ、お父さん」と苦笑いし、夫に付き添われて病室を後にした。

 この期に及んで母の体を気遣うなんて。

 うちのお父さんって、こんな人だったんだ。

カウントダウン

 3カ月前に膵臓(すいぞう)がん末期と診断された父は、私の自宅から徒歩5分の病院の一室で少しずつ衰えていった。好きな麦茶ものみ込めなくなり、昼夜を問わず眠り続けた。私は会社を休んで10日間付き添った。口を開けたままハー、ハーと音がする呼吸が始まり、亡くなる6日前の下血で「危篤」と告げられた。

 こうしてみとりへのカウント…

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