さびた看板に国道誕生秘話 「酷道」で見た人々の暮らし

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井上裕一
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 急峻(きゅうしゅん)な山々の間を走り抜ける険しさから、国道なのに「酷道(こくどう)」と揶揄(やゆ)される425号。和歌山県御坊市三重県尾鷲市をつなぐこの道は、紀伊山地に点在するいくつもの集落を結ぶ。その暮らしぶりはどんなものだろうか。

【動画】「酷道」と暮らし

正月の祝い花、収穫時期

 御坊市から東へ。印南(いなみ)町を走っていると、沿道に小さな小屋が目に付くようになった。車を止め、近くの女性に聞いてみた。

 「あれ、センリョウ。いま、切ってんねん。お正月の祝い花」

 そう言って指さした軽トラックには、鮮やかな赤い実をたくさんつけたセンリョウが積まれていた。正月に、縁起物の飾り花として使われるものだ。

 女性は、平井秀子さん(65)。センリョウは町の花で、ちょうど収穫期。小屋はセンリョウを栽培するための施設で、この地は昼夜の寒暖差が大きく、実や葉の色づきがいいそうだ。

 平井さんの両親が、この地でセンリョウを栽培していた。平井さんは結婚し、今は大阪府池田市に住むが、栽培や収穫で印南町に通っている。

 「近所の人が大根をくれたり、何くれたり。みんなよくしてくれるの。大阪の方が便利だけど、こっちの方が好きね」

「国道走る町」望んだ地元

 印南町は東西に細長い。横断するように走る国道425号は、町にとって重要なインフラだ。途中、「国道425号促進協議会」と書かれた看板が目に付いた。茶色くさび付いていて、何が書いてあるのかほとんど読めない。

 車に同乗していた同僚のカメラマンが、近くで軽トラックに資材を積んでいた男性に聞くと、「ちょっと町長に聞いてみます」と携帯電話を取りだした。

 この男性、実は印南町の日裏勝己町長(66)の息子さんだった。この時は電話がつながらなかったが、後日、看板について聞いた。「国道になることを要望するものだったと思う」

この先、本格的な「酷道」が…

記者が走った国道425号。この先には本格的な「酷道」が待っていました。「急斜面にへばりつくように並ぶ」民家の集落で出会いが続きます。

ここから続き

 町史によると、町は1980…

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