10月末の午後。川崎市内のマンションにワゴン車が止まった。横田早紀江さん(81)は、黒い杖を手にドアが開くのを待った。
車中から顔を見せたのは、夫の滋さん(84)。早紀江さんの姿を確かめると表情が明るくなった。滋さんはいま、週に数日、デイサービスに通っており、その帰りだ。早紀江さんは滋さんの右手に杖を握らせ、左手を支えて、二人でゆっくり自宅へと歩いた。
この日、早紀江さんに心境を聞いた。6日に予定されているトランプ米大統領との面会について、「まだ混乱しています。何を話したらいいのか……」。
早紀江さんは2006年4月にホワイトハウスでブッシュ大統領(当時)と面会した。「必ずめぐみは生きています」と訴えた。
「あのころはほかの被害者家族もみんな若かった。そして、希望もあった」
当時の夫妻は年に100回近い講演をこなした。だが、数年前から滋さんは参加が難しくなった。大好きなビールも飲めない。「野菜を口にしないのが心配で」。介護する早紀江さんも講演や集会の数を減らした。息子の拓也さん(49)が行くことが増えた。
トランプ氏との面会に、早紀江さんは家族写真を何枚か持っていくという。1977年11月15日。「本当に楽しい時代が、ばちーんと切られる」までの13年間に、滋さんが撮りためたものだ。
北朝鮮による拉致からの40年は、「暗黒の中を一生懸命泳いでいるようでした」。トランプ氏にも訴えたい。「めぐみちゃんに会いたい」
■「私たちがいなくなる…