「そこまでして生きたくない」 80代の父の不安と絶望

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岩崎賢一
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介護と医療の足元で:4(マンスリーコラム)

 父が、実家のリビングで母と私にこう言った。

 「あと1年持つかな……。たぶん、死んじゃっているよ。とにかく歩くのが容易じゃない。このごろ、トイレに行くのもおっくうになって……」

 私が、この「マンスリーコラム」の執筆もあって、実家で会話していたときの話だ。この予期せぬ言葉に絶句するとともに、改めて高齢者が内に抱えている衰えへの不安とその先にある絶望感を感じ取った。これから1年以内にやっておきたいことを尋ねたが、「ない」と父は答えた。

 80歳代前半の父は、2年半前に手術をした肺がんの転移の疑いがあり、家族はこれを気にしていたが、父は、それ以上に10年ほど前の脳梗塞(こうそく)をきっかけに不自由になった左半身と、ここ数年の加齢による足腰の衰えについて、不安が増しているようだ。

もう畑には

 今年8月25日、母が車で父を家庭菜園に連れて行った。家庭菜園と言っても、父の実家で借りた畑だ。多くの農作業は、私と母が行っているが、父や母の気分転換と、食事や着替え、移動、排泄(はいせつ)、入浴など、生活を営むうえで必要な体の機能(ADL)を落とさないために、少しでも体を動かせるように、という目的で私が提案して昨春から作付けを始めた。季節の野菜を作付け、手入れ、収穫し、旬を味わってきた。

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 ところが、ダイコンの種をま…

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