虐待死防ぐため「48時間ルール」(児相の現場から)

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第5章「児相の素顔」(3)

 すでに就業時間が過ぎていた午後6時すぎ、児童相談所(児相)の電話が鳴った。「住んでいるアパートで母親が娘を怒鳴る声がする。娘が泣いている」という住民からの通報だった。

 「出ていけ!」という母親の怒鳴り声、「お願いだから、○○しないで」と泣く娘の声が聞こえるという。

 虐待通報があると、児相は48時間以内に子どもの安全を確認するよう求められている。「48時間ルール」は1999年に埼玉県が始めた。厚生労働省は当初、児相の負担などを考慮し、参考として紹介するにとどめていた。しかし、京都府で3歳の男の子が食事を与えられずに餓死した2006年の事件で、児相に通報があったのに虐待死を防げなかったことが明らかになり、児童相談所運営指針を改正、全国的なルールとした。

 通報が重なれば、人手を割いて安全確認に向かわなければならない。「大丈夫だろう」と後回しにしたり、子どもに直接会えないままになったりして、子どもが死亡するケースは後を絶たないからだ。まさに時間との闘いだ。

 虐待対応チームを率いる課長が、すぐに住所から家族状況を割り出すよう指示。職員が市役所に問い合わせると、30分ほどで折り返し連絡があり、名前や家族構成が判明した。

 母子家庭で、娘は小学4年だった。「その名前、聞いたことがある……」。課長がつぶやいた。

 過去の記録を調べると、少し前に離婚した父親が「母親に虐待されているかもしれない。娘からメールが来た。娘が泣いているようだ」と児相に伝えてきていた。だが、このとき父親は「自分が通報したことは絶対に言わないで」と話したため、家庭訪問できずにいた。

 「今日の通報でこの家庭に入れる」と課長は前向きに受け止めた。

 虐待通報があると、児童相談所は48時間以内に子どもの安全を確認することが求められている。確認できないまま子どもが亡くなる事件が相次いだためだ。通報が重なれば、ワーカーはそのときの仕事を後回しにしてでも安全確認に向かう。

 午後7時、ワーカー2人が急…

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