夏目漱石「吾輩は猫である」220

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 「女に逢ってとろけずだろう」と迷亭先生が援兵に出る。主人はさっさとあとを読む。

 「ソクラチスは婦女子を御するは人間の最大難事といえり。デモスセニス曰く人もしその敵を苦しめんとせば、わが女を敵に与うるより策の得たるはあらず。家庭の風波に日となく夜となく彼を困憊起(こんぱいた)つ能(あた)わざるに至らしむるを得ればなりと。セネカは婦女と無学を以て世界における二大厄とし、マーカス・オーレリアスは女子は制御しがたき点において船舶に似たりといい、プロータスは女子が綺羅(きら)を飾るの性癖を以てその天稟(てんぴん)の醜を蔽(おお)うの陋策(ろうさく)に本づくものとせり。ヴァレリアスかつて書をその友某におくって告げて曰く天下に何事も女子の忍んで為(な)し得ざるものあらず。願わくは皇天憐(あわれみ)を垂れて、君をして彼らの術中に陥らしむるなかれと。彼また曰く女子とは何ぞ。友愛の敵にあらずや、避くべからざる苦しみにあらずや、必然の害にあらずや、自然の誘惑にあらずや、蜜に似たる毒にあらずや。もし女子を棄つるが不徳ならば、彼らを棄てざるは一層の呵責(かしゃく)といわざるべからず。……」

 「もう沢山です、先生。その…

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