夏目漱石「吾輩は猫である」215
「そういうと極ってるかい」と主人は相変らず芝居気(しばいぎ)のない事をいう。迷亭君はぬからぬ顔で、
「まあさ、小説だよ。いうとして置くんだ。そこで僕がなに代は構いませんから、御気に入ったら持っていらっしゃいという。客はそうも行かないからと躊躇(ちゅうちょ)する。それじゃ月賦でいただきましょう、月賦も細く、長く、どうせこれから御贔屓(ごひいき)になるんですから――いえ、ちっとも御遠慮には及びません。どうです月に十円位じゃ。何なら月に五円でも構いませんと僕が極(ごく)きさくにいうんだ。それから僕と客の間に二、三の問答があって、とど僕が狩野法眼(かのうほうげん)元信の幅を六百円但し月賦十円払込(はらいこみ)の事で売渡す」
「タイムスの『百科全書』見…
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