夏目漱石「吾輩は猫である」198

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 「そうそう、ウェルテル君のヴァイオリン物語を拝聴するはずだったね。さあ話し給え。もう邪魔はしないから」と迷亭君が漸(ようや)く鋒鋩(ほうぼう)を収めると、

 「向上の一路はヴァイオリンなどで開ける者ではない。そんな遊戯三昧(ざんまい)で宇宙の真理が知れては大変だ。這裡(しゃり)の消息を知ろうと思えばやはり懸崖(けんがい)に手を撒(さっ)して、絶後に再び蘇(よみが)える底(てい)の気魄(きはく)がなければ駄目だ」と独仙君は勿体ぶって、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だから頓(とん)と感心した容子もなく

 「へえ、そうかも知れません…

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