夏目漱石「猫」ガイド 作品の中で生き続ける「漱石」

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 漱石没後100年の日が刻々と近付いている。12月に入ると、間もなく漱石の命日だと、いつも思う。しかし、今年は特別だ。大正5年11月22日以降、書斎の机の前には、その主が不在である。病臥(びょうが)した漱石は、12月5日わずかだが水分がとれたという。この日、「東京朝日」の新聞紙上での「明暗」の連載は「百七十九」、温泉場に着いた翌日の朝湯のシーンだ。間もなく、津田と清子の対面が、少しずつ進行する。床に臥(ふ)す漱石の頭の中に、どういう作品の展開があったかは一切わからない。漱石みずからが作品の結末を決定する「猫」と、著者の死によって中絶する「明暗」とは、読者にとって対照的な終わり方だ。

 「猫」を書き始めた漱石は、その後12年間小説を書き続けることになるとは思ってもみなかったろう。書き始めて1年半、「猫」に凝縮され、内側からほとばしり出た混沌(こんとん)の世界は、その先はどうなるかわからない「未来」に開かれていた。その後の12年間に、傾向の違うそれぞれの作品に分与され、変容して結晶した。それらの作品は、もう原稿用紙に向かえない漱石にとって、すでに「過去」に属している。

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 そして「現在」、書き溜(た…

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