夏目漱石「吾輩は猫である」143

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 「仕方がないといえばそれまでだが、そう頑固にしていないでもよかろう。人間は角(かど)があると世の中を転がって行くのが骨が折れて損だよ。丸いものはごろごろどこへでも苦なしに行けるが四角なものはころがるに骨が折れるばかりじゃない、転がるたびに角がすれて痛いものだ。どうせ自分一人の世の中じゃなし、そう自分の思うように人はならないさ。まあ何だね。どうしても金のあるものに、たてを突いちゃ損だね。ただ神経ばかり痛めて、からだは悪くなる、人は褒(ほ)めてくれず。向うは平気なものさ。坐って人を使いさえすれば済むんだから。多勢(たぜい)に無勢(ぶぜい)どうせ、叶(かな)わないのは知れているさ。頑固もいいが、立て通すつもりでいるうちに、自分の勉強に障ったり、毎日の業務に煩(はん)を及ぼしたり、とどの詰りが骨折り損の草臥(くたびれ)儲(もう)けだからね」

 「御免なさい。今ちょっとボールが飛びましたから、裏口へ廻って、取ってもいいですか」

 「そらまた来たぜ」と鈴木君…

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