夏目漱石「吾輩は猫である」108

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 主人は何と思ったか、ふいと立って書斎の方へ行ったがやがて一枚の半紙を持って出てくる。「東風君の御作も拝見したから、今度は僕が短文を読んで諸君の御批評を願おう」と聊(いささ)か本気の沙汰である。「天然居士の墓碑銘ならもう二、三遍拝聴したよ」「まあ、だまっていなさい。東風さん、これは決して得意のものではありませんが、ほんの座興ですから聴いて下さい」「是非伺がいましょう」「寒月君もついでに聞き給え」「ついででなくても聴きますよ。長い物じゃないでしょう」「僅々(きんきん)六十余字さ」と苦沙弥先生いよいよ手製の名文を読み始める。

 「大和(やまと)魂(だましい)! と叫んで日本人が肺病やみのような咳(せき)をした」

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 「起し得て突兀(とっこつ)…

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