夏目漱石「吾輩は猫である」68
「そうかな、何だか上品で、気楽で、閑暇(ひま)があって、すきな勉強が出来て、よさそうじゃないか。実業家も悪くもないが我々のうちは駄目だ。実業家になるならずっと上にならなくっちゃいかん。下の方になるとやはり詰らん御世辞を振り撒(ま)いたり、好かん猪口(ちょこ)を頂きに出たり随分愚(ぐ)なもんだよ」
「僕は実業家は学校時代から大嫌(だいきらい)だ。金さえ取れれば何でもする、昔でいえば素町人(すちょうにん)だからな」と実業家を前に控えて太平楽を並べる。
「まさか――そうばかりもい…
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