(関西食百景)「残り物」が生んだ奇跡

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文・宮山大樹 写真・筋野健太
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大阪・泉佐野の犬鳴豚

 田んぼに囲まれた約300平方メートルの木造豚舎で、生後6日の10頭ほどの子豚が、横たわる母豚の乳にかぶりつき小さな体を小刻みに動かしていた。

 年間2千頭の豚を出荷する大阪府泉佐野市の関紀産業。約1300年前に役行者(えんのぎょうじゃ)が開いたとされる霊山・犬鳴山(いぬなきさん)の裾野で、大阪・泉州で親しまれるブランド豚「犬鳴豚」は育つ。

 母豚が鳴く豚舎で、バケツを抱えた専務の川上寛幸さん(37)が自家製の配合飼料を与えていく。「飼料は買ってきたほうが楽なんです。でも、このほうが断然おいしい肉になる」

 豚舎横では、高さ約2メートルの乾燥機が轟音(ごうおん)を響かせていた。周囲には香ばしいパンのにおい。うどんやパスタ、大豆かすなどと混ぜて乾かし、殺菌を経て薄いベージュ色の粉末が出来上がる。1日約3トン。これが犬鳴豚の味の秘密だ。

 泉佐野市沿岸部には食品コンビナートがある。寛幸さんの父で社長の幸男さん(65)は30年ほど前、地元商工会議所のメンバーとして視察し、余った小麦由来の食品が大量に廃棄されていたのを知った。元々、捨てるものだから、安価な仕入れが可能だった。配合の研究を重ね、今の味を作った。

 「肉といえば牛の関西で、牛に負けない豚肉ができた。残り物に福がある、やった」

余りパン 食べて霜降り 地産地消

 開け放たれた扉から柔らかい光が豚舎に差し込んでいた。幅60センチ、奥行き180センチの1頭ごとに仕切られたおりから、出産を控えた母豚約30頭の低い鳴き声が次々と響いてきた。

 関紀産業(大阪府泉佐野市)の豚舎では、夏は送風機、冬は暖房器具で、年間を通して20~25度くらいに温度調整する。専務の川上寛幸さん(37)は、「犬鳴豚がなくなったら泉佐野の損失。そう言われる存在になりたいんです」と話す。

     ◇

 寛幸さんの父、幸男さん(65)は養豚農家の友人宅で見た子豚に魅せられ、地元高校の畜産科に進んだ。三重県の養豚場で3年働き、1973年、退職金代わりの10頭の母豚を連れて泉佐野に戻り豚舎を建てた。

 最初の20年ほどは輸入トウ…

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