(関西食百景)熱と清水 「淡味」の秘密

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文・小川詩織 写真・豊間根功智
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福井・永平寺のごま豆腐

 道元禅師が厳しい修行の場として開いた曹洞宗大本山永平寺。その厨房(ちゅうぼう)を担った「典座(てんぞ)」経験者の教えを受け、保存料や化学調味料を使わずに練りごま、本葛、水だけで作る「ごま豆腐」が、大本山のおひざ元、福井県永平寺町にある。

 朝8時、福井平野が開けた田園地帯にたたずむ幸伸(こうしん)食品の本社工場では、稼働と同時に立ちこめた湯気が、春の冷気で窓に結露する。

 直径1メートル、深さ1・2メートルの大鍋に水を張り、1袋約10キロ入りの吉野本葛5袋を一気に流し込むと、鍋の中が真っ白のとろりとした液体になる。そこへ数種類をブレンドした練りごまを加えて混ぜ合わせ、1人前ずつの小さな容器に流し込む。ごまの香りがふわっと立ちのぼる。

 「こだわりが二つある」と社長の久保透さん(46)。一つは加熱時間。一般的製法では2時間ほど熱を加えながら練るが、ここでは10分ほど。素材に与える熱のダメージを極力抑え、本来の味や香りを生かす。

 もう一つは一帯の地下を流れる白山(2702メートル)の伏流水。溶岩層に1年で1メートルずつしみこむ。100メートルの深さから、100年以上かけて研ぎ澄まされた清水をくみ上げている。

 いただくと、道元禅師が「六味」で最も重んじた「淡味(たんみ)」がのどをなめらかに過ぎてゆく。

メインじゃなくても精進します

 日本料理や懐石料理の先付けとして出されることが多い、ごま豆腐。元々は精進料理のメインディッシュだった。

 「精進」の本質は、手間ひまを惜しまないこと。鎌倉仏教が花開いた頃、原料となるゴマや葛は薬として珍重されていた高級品だった。貴重なゴマを練ったり、葛を潰したりと手間がかかるごま豆腐づくりは、まさに精進。庶民の口に入ることはなかなかなかった。永平寺では現在も修行僧は食べられず、高僧に出す「おもてなし料理」だ。

      ◇

 永平寺門前の上り坂の両脇には二十数軒の土産物店が連なる。店先には「ごま豆腐」の幟(のぼり)や、盛りつけ例を紹介する写真入りの看板が立ち並ぶ。

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 明治の頃まではこの門前町は…

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