老人ホームの夜勤、実態は 一晩に呼び出しコール90回

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中村靖三郎 井上充昌 十河朋子
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介護現場 虐待生まぬために〈上〉

 川崎市有料老人ホームで入所者3人が転落死した事件で、うち1人の殺人容疑で逮捕された元職員は「夜勤など仕事のストレスがあった」という趣旨の供述をしています。介護現場で職員たちは、どんな状況に追い込まれているのか。虐待を防ぐ手立てはないのか。2回にわたって考えます。

 介護の仕事で特に負担が重いとされるのが夜勤だ。2月下旬に東京都内の特別養護老人ホームを訪ねた。

 夜勤の開始は午後4時45分。介護福祉士で15年目の男性主任(35)は、すぐ夕飯の準備にとりかかった。「お金がない」と探し回る人や「どこに行くんだよ!」と叫ぶ入所者に対し、主任は優しく声をかけて食堂に連れて行く。

 食事が終わると就寝に向けた介助が始まる。寝間着に着替えさせ、歯磨きを手伝い、オムツ交換や薬の手配……。1人ずつ寝かせて、一段落したのは午後10時前だった。

 夜勤は2時間の仮眠を含めて17時間。午後8時半から翌朝7時までは、職員2人だけで1フロア47人を担当する。

 排泄(はいせつ)の介助は、入所者が寝ている間も続く。オムツ交換は朝まで数時間おきに計4回。その間も職員を呼ぶコールの対応に追われる。

 午前3時半、部屋で転倒したという男性(85)から呼び出しがあった。「救急車を呼んでもらえないか」。担当の看護師に連絡し、救急搬送することに。仮眠に入ったばかりのもう1人の男性職員(39)を呼び戻し、手分けして病院や家族に電話を入れた。

 電話連絡に追われる最中も入所者のSOSは響く。「助けてくれー」という叫び声に駆けつけると、女性が床に座り込んで「なんでこんなんになっちゃったんだろう。分からん」と声をあげていた。

 午前4時半に救急隊が到着し、主任が同行。残った職員が1人で対応することになった。明け方が近づくと、コール数は急増。トイレでは便の臭いがたちこめ、男性がうめき声を上げている。汚れを拭き取り、着替えさせる間もコールは鳴り続ける。「順番に回っていますから、お待ち頂けますか」。そう繰り返しながら、職員はこう漏らした。

 「わかってはいるけど、どうしてもイライラしてしまう。先が見えない」

 1時間後、主任が病院から戻…

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