夏目漱石「それから」(第八十五回)十四の四

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 代助の方では、もういうべき事をいい尽くしたような気がした。少なくとも、これより進んで、梅子に自分を説明しようという考えはまるでなかった。梅子は語るべき事、聞くべき事を沢山持っていた。ただそれが咄嗟(とっさ)の間(あいだ)に、前の問答に繫(つな)がり好く、口へ出て来なかったのである。

 「貴方の知らない間(ま)に、縁談がどれほど進んだのか、私(わたし)にも能(よ)く分らないけれど、誰にしたって、貴方が、そう的確(きっぱり)御断りなさろうとは思い掛けないんですもの」と梅子は漸(ようや)くにしていった。

 「何故(なぜ)です」と代助…

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