夏目漱石「それから」(第七十三回)十三の一
四日ほどしてから、代助(だいすけ)はまた父の命令で、高木(たかぎ)の出立を新橋まで見送った。その日は眠い所を無理に早く起されて、寐足(ねた)らない頭を風に吹かした所為(せい)か、停車場(ステーション)に着く頃、髪の毛の中に風邪(かぜ)を引いたような気がした。待合所(まちあいじょ)に這入(はい)るや否(いな)や、梅子(うめこ)から顔色がよくないという注意を受けた。代助は何にも答えずに、帽子を脱いで、時々濡(ぬ)れた頭を抑えた。しまいには朝奇麗に分けた髪がもじゃもじゃになった。
プラットフォームで高木は突然代助に向って、
「どうですこの汽車で、神戸…
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