「ゴミ屋敷」に老夫婦、年金使い込む息子… 認知症社会

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本田靖明 生田大介 松田史朗
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 「お願いです。病院に連れていって」

 昨年の冬、岡山県内の自宅で自治体の職員に保護されたとき、70代の妻はそう叫んだ。そばには80代の夫。ともに、認知症を患っていた。

 自宅は「ゴミ屋敷」になっていた。捨てられずにたまったゴミの袋が山積みになり、古くなった弁当や汚れたオムツが床を覆っていた。同居していた40代の息子は外出していた。

 夫婦は二十数年前、夫の定年を機に故郷の岡山県に移り住んだ。年金は夫婦で月約30万円あり、安心した老後を送れるはずだった。

 だが、2人の暮らしは、認知症によって大きく変転した。

 移り住んで10年ほどすぎた頃、夫は脳梗塞(こうそく)を起こし、車いすでの生活になった。妻の話を忘れる。過去の記憶と現在を混同する。脳梗塞の後遺症で認知症も進んだ。

 「老老介護」は重労働だ。妻はデイサービスも利用しながら夫の生活を支えた。介護疲れから酒を飲むようになり、やがて認知症になった。家が荒れ始めたのは、数年前からだ。

 そんなときに、県外にいた息子との同居が始まった。

 それからの夫婦の暮らしぶりについて、福祉関係者の記録にはこう残っている。「何カ月も入浴できず、適切な食事もとれず、ネグレクト(介護放棄)状態であった」

 息子は独身で無職。借金もあった。夫婦の年金が振り込まれると、決まって20万円が消えていた。夫名義のカードの借り入れも約300万円にのぼった。

 近所などからの通報で、自治体もこの家の異変に気づいた。昨冬、自治体職員が息子の留守を見計らって家に入り、夫婦の保護に踏み切った。

 夫婦はいま、自治体などの支援を受け、同じ老人ホームに入っている。息子は同じ家に住み続けている。

 今月、記者が夫婦を訪ねた。

 「お父さん、昔は気難しくてね」「息子はしっかり者だったの」。苦しんだころの記憶は抜け落ち、妻が語ってくれたのは楽しかった時代の思い出ばかりだ。部屋には、夫がリハビリで書いた手紙が貼ってあった。震える字で、こう書かれていた。

 〈仲良く、続けませう〉(本田靖明)

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