夏目漱石「それから」(第十八回)四の二

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 代助は机の上の書物を伏せると立ち上がった。縁側の硝子(ガラス)戸(ど)を細目(ほそめ)に開けた間から暖かい陽気な風が吹き込んで来た。そうして鉢植(はちうえ)のアマランスの赤い弁(はなびら)をふらふらと揺(うご)かした。日は大きな花の上に落ちている。代助は曲(こご)んで、花の中を覗(のぞ)き込んだ。やがて、ひょろ長い雄蕊(ゆうずい)の頂きから、花粉を取って、雌蕊(しずい)の先へ持って来て、丹念に塗り付けた。

 「蟻(あり)でも付きましたか」と門野(かどの)が玄関の方から出て来た。袴(はかま)を穿(は)いている。代助は曲んだまま顔を上げた。

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 「もう行って来たの」…

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